ナマエは祖父にお前一人前なんだからそろそろ眷属の一人でも作って来いと言われた。「じーちゃんも歳だし一族の高齢化心配してるの?」と聞くと引くくらい発狂された。
わしはまだ若いだのなんだの五月蝿かったのでしこたまワインを飲ませて酔い潰した上で棺を五メートルくらい地中に埋めた。これでしばらくは静かになるだろう。
やりきった感満載で電話で真祖に眷属作りに行くことを伝えてアドバイスを乞うと同行してくれると言ってくれた。
そんな訳で新横浜ーーロナルド事務所にて。

「というわけで、血族募集中」

「おじいさん大丈夫なの!?」

「目立つようにしてるから誰か掘り返すと思う」

イルミネーションをふんだんに使用して目立たせているので見つけるなという方が難しいと思う。
立て札に祖父の名前と”ここに安らかに埋まる”と書いておいた。とても分かりやすい。それを見つけた一族の誰かが多分肝を冷やしてると思うがそんな事は些細なことだった。

「手頃な人間いない?誰か紹介してよ」

「ヤダよ!ノリ軽すぎな上に退治人にそれ言っちゃうの!?」

「ウチはインフォームドコンセントはしっかりしてるよ。非合意でいきなりガブってのはない」

「それな」

ナマエの横で真祖がうんうんと頷いている。合意のない者をいきなり吸血鬼にするとか何それ野蛮って感じの発想だ。
特に古い高等吸血鬼にはそういう発想のものが多かったりする。

「ロナルド君どう?一発逝っとく?」

「本気でやめろください」

人間の吸血鬼化は非常に難しく、下等吸血鬼には(仮性化することはあれど)まずには出来ない芸当だ。高等吸血鬼ですら何も起きないことが多い。
ナマエは一族の真祖の直系で吸血鬼の中でもかなり濃い血を持つ吸血鬼なのでそこに関しては心配してない。
ロナルドなんかかなり素質がありそうに感じたので誘ってみたが案の定断られた。割とマジに。
退治人だから仕方ない。

「ロナルド君がダメとなると街頭での声掛けでもするか」

「わーー、待て待て待て」







いかに濃い血のナマエであろうと素質ゼロの人間を吸血鬼化するのは難しいかもしれない。
なので直感で良さげな人間を探し片っ端から声を掛ける事にした。結局は噛んでみないとわからないのである。

「そこのお姉さん」

「ナマエ、野生のダチョウがいる」

「え、マジで?丸焼きにしたら美味しそう」

真祖の声にピクリとナマエが反応した。
物珍しさよりダチョウは食べたことがなかったからだ。調理してみたいなぁと気を取られている間に声を掛けた女性はロナルドが何処かに連れて行ってしまった。

「そちらの暇そうなお兄さん」

「流れ星だ」

「わ、お願いしなきゃ」

何をお願いしようかなと考えているとまたもやターゲットが消えた。
あれ、おかしいな。まあ、まだまだ人間はいっぱいいるからいいかなんて考えつつまた手頃そうな人間を見つけた。

「君、吸血鬼に興味ない?」

「あっちに……人の子が」

「いや流石にそれは驚かないわ」

「ナイスツッコミ」

真祖にツッコミを入れてる間にry
そんな事を繰り返してただただ時間だけが過ぎていった。

「おかしい。そろそろ一人くらいスカウト出来て良いのでは?」

「本気で言ってるの??」

ロナルドの突っ込みにナマエは首を傾げた。
良さげな人間に片っ端から声を掛けてみているつもりだが勧誘の成果はゼロ。全く思わしくない。
やはり吸血鬼は今の時代は流行らないんだろうか。そんな馬鹿な。

「つーか、ドラルクのじいさんがモゴモゴ」

「ロナルド君、シッ、触らぬ神に祟りなしだよ」

「……?」

「今日はもう諦めたら?」

何事か言いかけたロナルドの口をドラルクがサッと塞いだ。問いかける前に真祖がナマエの前に立ちナマエの気が逸れた。
そして諦めるように促す真祖の言葉にナマエは成る程と思う。こういうのは運の要素も強い。
今日はダメってことですっぱり諦めてしまおう。別に期限とか言われてなかったからそれでいい。









「収穫なしか〜」

高層ビルの屋上から街を俯瞰しながらナマエはため息を吐いた。
こうして地上を見下す中でもポツポツと良さそうな人間はいたが、今日はもう勧誘は店仕舞いだ。そもそも乗り気ではなかったし。
じーちゃんの話は忘れて適当に遊んで帰るかなと思って振り返るとそれを待っていたかのように真祖が口を開いた。

「彼は君の交友関係を心配していた」

「じーちゃんが?」

「つまり私がいる限りその問題は解決している事になる」

「そうなるね」

ナマエと真祖は自他共に認める仲良しである。今更すぎる話だ。

「それに私とはまだ世界一周旅行もユーラシア大陸横断もUMA探索だってしてない」

真祖はいつも表情が乏しく言葉は少ない。今日は珍しくよく喋るなぁと思ってナマエはその行動や言葉を思い返してみた。
あんまり気にしてなかったけど、結構スカウトの邪魔されてたような?え、邪魔してたの?なんで?
ナマエは眷属一人くらい作って来いと言われて真祖と一緒に街に行ってそれからこうなった訳だ。
ナマエの一族は自分が引き入れた眷属は一人前になるまで面倒を見るのがルールで、相手の素質によるがしばらくは掛り切りになるだろう。
そこまで思いついたところで、ナマエの頭に閃くものがあった。

「眷属作ったらその子の世話をしなきゃならなくなるから忙しくなるよね」

チラリと向けられた視線のなんともまあ物言いたげな様子にこれはもしかしてもしかしたりしちゃったりするのだろうかとナマエは思った。
こういった時の感情表現が彼はとても苦手なのだ。

「確かに真祖さんほったらかすの悪いし、私だってまだまだ遊びたりないなぁ」

つまり、まだまだ二人で遊びたいからさりげなく(?)邪魔してきたわけだこのおじいちゃんは。
たまにこういう可愛いとこあるよなぁと思う。
やだ辞めてって言わないところがなんともまあ真祖らしい。

「眷属作らなくても私がいるからいいと思う」

辞めてと言わないけど、明らかにそんな感じのニュアンスだ。
ナマエの友人は強大な力と能力を持つのに本当に不器用な吸血鬼だった。
そういうところが好ましいのだが。
この気持ちを誰かに言って理解された事がないのが残念だ。

「そうだね」

「だからあと100年くらいこのままにしとこうそうしよう」

「ふふ、100年で足りるかなぁ」

100年なんて吸血鬼にとって瞬く間だ。いっぱい遊んで100年で足りるとはとても思えないので延長することになるんだろうなぁなんてきっとお互いに考えてることだった。


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