フラフラと新横浜を彷徨うマイクロビキニとマスクの吸血鬼、若干涙目なのが気になってナマエは声をかけた。
最初は警戒心むき出しのようだったがしばらく(数時間)付き纏っていると諦めた。
警戒心が強いというか、多分この吸血鬼はコミュ障なのではなかろうか。人の目がまともに見れないタイプだ。露出の割にシャイだった。
それでも長時間で慣れたのかポツポツと自身の状況を説明してくれるに至る。
因みに名前は見たまんま”マイクロビキニ”らしい。
ナマエは通り名を名乗るかどうか悩んだ結果、通り名は名乗らないことにした。アレは”遊ぶ時”に使うものだと認識しているからだ。

「ぐけ…兄が帰ってこないんだ。連絡もつかないし心配になって」

「それで探してたの?それは大変だね。手伝おうか、特徴教えてくれるかな」

「兄さんはジャンケンの模様の着物を着ていて…「あ、一発で分かった」知ってるのか!?」

そんな吸血鬼は一人しか知らないし、そう多くはいないだろう。
めちゃくちゃ楽しかった夜の事を思い出しながらナマエはそう言えば写真撮ってたんだと思い出した。念のため確認してもらった方がいいだろう。

「吸血鬼”野球拳大好き”だよね?君ら兄弟だったの?」

「ああ、そうだ」

「世の中って狭いね〜」

ナマエがこの前の写真を見せるとマイクロビキニは大きく頷いた。相手が分かれば話は早い。
辻野球拳とかしててくれれば悪目立ちしててくれれば楽なのだが。

「今日はお鍋一緒にしようと思ってたんだよ。丁度良かった」







吉凶は糾える縄の如しとの言葉通り、連勝連覇を続け今まさに絶頂絶好調であった野球拳大好きの命運は凶に傾きつつあった。

「こんばんわ、いい夜だね」

出会ってしまった吸血鬼”スゴロクゲーム大好き”に野球拳大好きは口布の下で頬を引きつらせた。
正直すっっごく、めっちゃくちゃ逃げたいが弟が気掛かりでしょうがない。兄の性ある。良い兄は苦労が絶えないのだ。
マイクロビキニは特に何をされたわけではなさそうで、寧ろスゴロクゲーム大好きに信頼を置いているようだ。スゴロクゲーム大好きの後ろからキッと野球拳大好きを睨みつけている。

「この愚兄!連絡くらいいつでも取れるようにしていろ!!」

神経質な気のある弟の罵倒に野球拳大好きはポリポリと頬を掻いた。
引っ込み思案で内弁慶な引きこもりがちな弟がわざわざ外に出たのにはそれなりの理由があったんだろう。それは察するが大雑把な方な野球拳大好きの性格がそれで変わるわけでもない。
出来ることと言えばせいぜい噛み付いてくる弟を適当にいなしてやる程度だ。

「まあ落ち着けよ。大の大人がちょっと連絡取れねぇくらいで心配すんな」

「なっ、しっ、心配なんてしてない。ただ貴様が外で恥を晒してないか気になっただけで…」

どうどうと宥める野球拳大好きが図星を指摘してしまったのか、マイクロビキニは真っ赤になって反論する。
マイクロビキニは毎回噛みつきはしても兄に勝てた試しはない。だが今回はいつもと違うのだ。グッと歯を食いしばりいつもはいない助っ人へと顔を向けた。

「ナマエも何か言ってやれ。この愚兄はいつもいつも適当すぎるんだ!」

わざわざ声をかけちゃったよ。野球拳大好きが折角見ないふりをしていたのに台無しだった。やめてくれと言わんばかりに頭を抱えた野球拳大好きにナマエと呼ばれた吸血鬼はうーんと悩むそぶりを見せた。

「何鍋がいい?具材は?」

「な、鍋!?」

これぞゴーイングマイウェイといった具合の見事なぶった切りっぷりだった。ナマエの勢いにマイクロビキニが怯んでいる間にナマエの中では色々と考えがまとまったらしい。
ピッと人差し指を立てて野球拳大好きにとって恐ろしい笑顔で笑う。

「オススメはそうだなぁ…闇鍋!」

「ああ〜俺めっちゃすき焼き食いたいなぁ!!A5ランクの牛肉でふんだんに高級食材使ったすき焼き!食べたことないから!!」

その闇鍋は闇の中で食す鍋ではなく闇の食材(ヤベェの)を使った闇鍋に決まっている。
ダラダラと冷や汗を流し野球拳大好きはヤケクソでナマエに被せるように叫んだ。なるべく手に入れるのが困難そうな食材を使ったものだ。食べたいのは嘘じゃないけど。
頼むからこれで今回は勘弁して欲しいと思いつつナマエを見ると合点承知と言わんばかり表情だった。
ーー知らなかったのか…?大魔王からは逃げられない。
野球拳大好きの脳裏に某魔王の台詞が過った。

「いいね。じゃあそれにしよう。食材買ったらすぐ行くね」

なんで家を知ってるのかとか、怖くて聞けなかった。
野球拳大好きが思い出せるのは鍋は普通に美味しかった事だった。ただ何故か途中から記憶がない。


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