ナマエの一族とドラルクの一族は昔から交流があった訳ではない。お互いに認知はしていたが交流が始まったのはナマエとドラルクの祖父が知り合ってからだ。
ナマエが真祖を自分の一族の根城に連れて行ってその逆も度々あり、互いの一族を巻き込み遊びまくってたら気づいたらそうなっていた。ホントになんでこうなったんだ。
今では度々(強制的に)親睦会が行われてたりする。
前回はドラルクの一族側が招待したので今回はナマエの一族に招かれる形となっていた。
現在ナマエの祖父は真祖と卓球対決をしている。ナマエの祖父は真祖に頑張って張り合うのでドラルクたちとしては都合のいいイケニ…とてもありがたい存在だった。
「ナマエ君、私だけどいるかい?丁度良いクソゲーもって来たから一緒にしようよ」
「どうぞー、でも私今から出かけるよ」
部屋を訪ねると窓枠に足を掛けていたナマエがドラルクへと振り返る。今から出かける気満々な感じだ。
折角遊びに来たのになんて事だ。えー、と不満たらたらのドラルクの声にジョンも相槌を打っていた。
「流石に自分の父親の愛妻合戦とかみたくないし聞きたくないわ」
「それは分かる」
自他共に認める愛妻家のドラウスとナマエの父親が揃うと妻自慢合戦に発展する。お互い譲らぬ真剣勝負だが、ただの外野としてはどうしても白ける。
確かに夫婦仲が良いことは素晴らしい事だ。
でも、やっぱり子供心としては父親が母親の写真を棺の蓋に貼り付けて寝る前にキスしてるとかそんなの知りたくないわけで、ナマエの気持ちも理解出来る。
「私はやる事あるのでちょっくらバックれるのであとはよろしく。ここに置いてるゲームどれでもやってて良いよ。あとジョンにはおやつ作ったから食べてね」
「イェーイ」
「ヌー」
気前よく場所を提供してくれるナマエにドラルクとジョンは諸手を挙げて喜んだ。
「あ、そう言えばこれ新作のボードゲーム。真祖さんに感想よろしくって言っといて」
「ギャッ、そんなのいらないから!仕舞って仕舞って!!」
「ははは、遠慮しなくて良いんだよ。それじゃ」
こんな危険物真祖の目に触れれば面白がるに決まってる。今夜中にやろうとか言い出す。寧ろ即言い出す。絶対にだ。
押し付けられたボードゲームを断固として拒否しようとする試みは案の定失敗に終わり、ナマエはからから笑いながらコウモリになって飛んで行ってしまった。
「行ってしまった。…いや、呆然としてる場合じゃないぞ私。これが御祖父様の目に触れる前に隠さなくては」
呆然としてる場合じゃないとドラルクが隠し場所を考えているとトントンとノック音が響いた。ドラルクはとてもつもなく嫌な予感がした。
「ナマエ、卓球終わった。暇だから遊びに来たよ」
トントンガチャみたいなノックからノータイムで開けられたドア。
ドラルクが居留守を使おうとか、誤魔化す手段を思いつく間もなく真祖が現れた。
「ナマエいないのか残念。ドラルク、それ何?」
ナマエの不在に気づきドラルクの手の中にあるボードゲームをジッと見つめる真祖。ドラルクの頬を冷や汗が伝った。
「私を一人にしないでーー帰って来て名前くーーーん!!?」
「おかえり」
事務所へと戻ったロナルドを迎えたナマエはニッコリと牙を見せて笑った。
頭痛がするとばかりに眉間を抑えたロナルドが祈るように目を閉じた。数秒後、夢であってくれと意を決して目を開いてみたが勿論、幻覚ではないので消えてくれる訳がない。
「何でここにいんだよ!?ドラ公なら集まりがあるとかでしばらくいねぇぞ」
「ドラちゃんいないのは知ってる。私の部屋でゲームしてるよ」
「そうなの!?仲良いな。じゃあ何しに来たの?」
「遊びに…と言いたいところだけどまあこれ見てよ」
ナマエが首からぶら下げたプラカードを見てロナルドは怪訝そうな顔をした。
「ドラルク代行サービス?」
「ロナルド君、料理も洗濯も掃除もまともに出来ないからドラちゃんいないと野垂れ死にそうだって聞いた」
「あの野郎帰ってきたらぶっ殺す」
ドラルクの言いように怒りながらもナマエに頼んだのは指摘通りまともなものを作れずお腹が減っていたからだった。
ドラルクのものとはまた違った味だがナマエの料理もうまい。度々咳き込みながら掻き込むロナルドにどれだけお腹空いてたんだろうとナマエは不憫そうな目を向けていた。
そんなこんなでロナルドが腹を満たした頃に退治の仕事が入る。廃墟に厄介な下等吸血鬼が出現しており、時折子供が遊んだりして危ないから退治して欲しいとの事だった。
ドラルクの代わりなのでナマエは同行する事にする。煽ったり裏切ったり塵になったりしたらいいのだろうかとか余計なことを考えながら。
「子供見つけた」
「でかした!って早いな」
「かくれんぼ得意なんだ」
「だろうな」
遠い目をして同意したロナルドが頷いた瞬間、女の子の体がビクリと震えたのをナマエは感じた。
昆虫のような羽音をナマエの耳が拾いそちらへと視線を向けるとそれはそれは大きな虫がいた。
「キャーー」
「危ない!」
肩に乗せた子供の悲鳴とほぼ同時にロナルドが叫ぶ。確かにかなり大きいし年頃の女の子には気持ち悪かろう。下等吸血鬼化もしており、女の子を狙ってかこちらに向かってくる。
取り敢えず邪魔だなぁとナマエの軽く振るった平手がバコンと硬質な音を立てて虫の体を吹き飛ばした。
勢いよく壁にぶつかった後にズルズルと落ちていく虫の体はサラサラと塵と化していく。
「おっきい虫だったからビックリしたよね。ロナルド君、この子の親も心配してるだろうし早く吸血鬼退治して帰ろうよ」
「う、うん。もう退治し終わったって言うか心配ないって言うか」
「仕事終わり?」
「おかげさまでな」
何はともあれ怪我人が出なくてよかった。ホッとした様子のロナルドにナマエはスマホを用意した。
「じゃあ、私たちの初退治の記念写真撮ろうよ。ピース」
楽しそうなピースのままパシャリと撮られた写真が載せられたツイッターにはすぐさま”いいね”の通知が来る。
そのフォロワーは既に事務所に遊びに来ている吸血鬼だったりするかも知れない可能性をロナルドはまだ知らない。
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