※大人の尾形と時を越えた幼馴染の少女の話です。時空が歪んでます。
尾形百之助は軍人で階級は上等兵で、ついでに脱走兵らしい。脱走兵ってそれは不味くないか?
特徴的な髭とかき上げた前髪に黒い底の見えない目をした男だった。両顎についた傷は杉元との因縁らしい。
ナマエの幼馴染に非常に似た男なのだが、幼馴染には男が時折見せる頭を撫でるような仕草をするような癖はなかったように記憶している。
「おい」
尾形は、ナマエに呼びかけるときは、おい、とかおまえ、とかで名前を呼ばない。
ナマエはちゃんと名乗ったのに失礼な男である。他人と親しげにしてる様子が想像つかない、誰に対してもそんな男なのだと考えれば多少は許容出来た。
でもやっぱり不満はあったのでナマエは口をへの字にして尾形を見る。
尾形の黒々とした目とナマエの目が合った。よく分からない睨み合いの後、尾形がふいと目を逸らす。何がしたいんだとナマエが不審に思っていると尾形が胡座をかいた膝を叩いた。
「ここに座れ」
「何故」
「いいから、そばに来い」
尾形とそんなに近くなるくらい親しくなった覚えはない。
そう思ったがナマエは膝の方が地面に座るよりいいかなと思ってしまうたちなので素直に座った。
従ったはいいもののそれ以上する事もなくなんとなく尾形の特徴的な顎髭を観察していると、前髪を上からなぞるような仕草をした尾形にため息を吐かれた。
「俺の髭が気になるのか」
「髭もだけど尾形さんの行動の方が気になるよ」
「この状況が俺の馬鹿馬鹿しい妄想か現実か、確認したいことがあってな。黒子でもいいんだが…それを確認するのは少々拙い」
「動くなよ」と言い添えて尾形の手がナマエに伸びてきた。
尾形はまるでそこに何があるのか知ってるかのように正確に、ナマエの米神の辺りの髪を指先で掻き分けるように動かす。
露出した一点の皮膚が硬くなった古傷の部分を親指のはらでなぞると「ははッ」と笑ったので正直ちょっと怖いとナマエは思った。
「この傷は?」
「木登りして落ちた」
「……柿の木か?」
「うん。柿を取ろうとした時にね」
「五つの頃か?」
「そうだよ。軍人さんってそんな風に傷を見るだけで分かるの?」
「いいや、知ってるだけさ」
ぐいぐいと米神に添えられた手に力が込められて尾形の方に倒れ込む。困惑するナマエがチラリとみた尾形はほんの少し口角が上がっており上機嫌そうだった。
身を捩ったり胸に手をついて押してみたりするが成人男性…しかも軍人として鍛えに鍛えている尾形には力で勝てるわけがなくナマエは早々に諦めた。
力を抜いて温もりとトクトクと脈打つ心臓の音にうとうとしているとしていると「ナマエ」と初めて名を呼ばれた。
びっくりして顔をあげる瞬間、ゴッと何か硬いものが後頭部に当たる。恐らく尾形の顎だ。顎を押さえて「石頭が…」と低く唸る声にナマエはあららと思った。
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