夢小説長いの | ナノ



05


 絶望的につまらない。せっかく面白いことをしでかしてくれるのではないかと泳がせておいたななしのという駒は、あろうことか4週目だというのに何一つ学習せず、2週目と同じ方法で第一の殺人を乗り切ってしまったのだ。もうこれで一つの運命が確定してしまったことに彼女は微塵も気づいてはいない。それどころか、自分の選択はこれで″正解″だと勘違いしてしまっている。
 データの奥底、ウサミや未来機関が凡そ見つけることのできない深淵の中、島にいる彼らを監視するシステムに囲まれた空間に漂う絶望感に満ちた少女は深く溜息を吐いた。

「何コレ。ばっかじゃないの?」

 こんなもので運命だの絶望だのを打ち破れると、本気で彼女は思っているのだろうか。だとしたらこれまで会ってきた人物の中で最低級の位置づけをしたくなるほど、彼女は浅はかで滑稽で、愚かだ。凡人の知能指数にすら彼女は至ることができていない。
 絶望に飢えながらデータの海に身を置くこの少女は、超高校級の絶望と呼ばれる江ノ島盾子という故人のアルターエゴだ。本人ではない、がそれと同等の知能を持ち電子回路内で呼吸をし続ける存在である。
 いつだって新たな絶望を見つけては悶え喜び、発狂する。そしてそれが自然に発生しなくなれば新たに自ら作り上げようとする奇人であった。その精神はこのデータの彼女も引き継いでいる。故に今、彼女は撒いたはずの新たな絶望の芽が開花することなく、発芽しただけの状態でぬるま湯に浸っているのを目の当たりにし、失望感を隠せないでいた。
 もしこのまま2週目と同じことばかりを繰り返すのなら飽きてしまいそうだ。とてつもない退屈によって殺されてしまう。そんなのは御免である。何もしないのなら一層のこと踏み潰して粉々にし、二度と這いあがれないようバグの中に埋めてやろうか。もうそれでもいいかもしれない。

「あーあ……。アタシの絶望から逃れたって言っても、所詮は77期生だもんね。あの雑魚共と大して変わんないか」

 どうやってななしのが絶望せず、今未来機関に身を置いているのか江ノ島は知らない。ただその日、唯一彼女だけ学園に出席していなかったことだけは確かだ。
 彼女が何故逃れることができたのか、超高校級の幸運すら逃れられなかった運命をたかが収集家如きにかわされるなど、非常に絶望的であった。最も、今やその時感じた絶望感にすら飽きてしまい彼女で遊ぶことに没頭しているのだが。
 今や彼女が悶えることのできる絶望は、第77期生を全員絶望させることができなかったという事実だけだった。その理由を知り、知った上でななしのを絶望で打ちのめしてやりたい、飲み込んでやりたい。それが彼女を動かす唯一の原動力であり、ななしのの繰り返しが許されている理由だ。
 しかし江ノ島が飽きてしまえばそれは叶わなくなる。システムの上書きなど彼女にとっては容易だ。

「頼むよーななしのさん。アタシを退屈させないでよね……アンタだけが今の唯一の暇潰しなんだからさ。うぷぷぷぷっ!」

 怪しく笑いながら彼女はモニターに右手をかざす。するとモノクマのイラストが書かれた画面が出現する。それに向かって手早く指先を動かし操作した後、彼女は監視カメラの方へ視線を向ける。左手でその中の一つを指差した。そこに映っていたのは件の少女ななしので、どうやら今しがたアナウンスにより起床した様子である。昨夜はしゃぎ過ぎてしまったのか、眠たげに大きく欠伸をしている様が見られた。
 そんな顔をしていられるのは今の内だけだと、絶望的に回避不可能な企みがあることなど何一つ知らないで。



 すっかり安心しきった表情を浮かべながらななしのは眠っていた。これで一先ず最初の悲劇は防げたのだ、と。やがて朝日と共に小鳥の囀りが聞こえ、穏やかに目覚めの時刻がやってくる。
 定期的に流れされるモノクマアナウンスの音により瞼を開けた彼女は、気怠げに顔をしかめながらタオルケットを剥いで上半身を起こした。昨夜のパーティーではしゃぎすぎたためか、体の節々が筋肉痛を訴えている。大きく伸びをしてベッドから抜け出す。
 昨夜は本当に楽しかった。けれどもここからが本番なのだと彼女は知っているのだ。
 依然として皆の島から出たいという気持ちは変わらないし、そのためにあらゆる手段を駆使してくる人たちだっている。島から出ずとも少なくとも理由を知りたいという人も、個人的な欲望に走る人も。そんな彼らがどんな行動に出るのか、ここから先は未知の領域だ。
 2周目にここまで来たときは、1周目と同じ道を辿った。モノクマによって動機という名の悪魔、ゲームの筐体が用意された。誰も手を出さないという約束で公園をしばらく立ち入り禁止として決めたが、やはり結局のところ個々にプレイをしてしまい、悲劇が起きた。
 あの時は十神がいたためクラスメイト達が統率されていたはずだったのに、何故あんな事態になってしまったのだろうか。前日までは、彼の意見に賛成して誰もがそうだねと口を揃えて言っていたはずなのに。事件が起こる前までは彼女も孤立することなく、仲間として認識されていたのに。
 完璧だったはずの要塞ががらがらと音を立てていくように、容易く崩れていく信頼や絆の姿に胸が締めつけられたことを鮮明に覚えている。必死に建て直そうとしても材料がどれなのかわからない。探す暇も与えず次々と綻びが生じて、あっという間に全てばらばらに砕け散ってしまった。見事なまでに、呆気なく。
 一体何が起きたのか、あの時は全く分からなかった。絶望を、皆の運命を変えることを甘く見過ぎていたことは認めざるを得ない。けれどもそれにしては早過ぎると感じたことも確かだった。
 何か根本的なところを見落としているのではないだろうかと、あの悪意の塊に満ちたぬいぐるみの余裕ぶった台詞が物語っている様に感じられてならないのである。
 このままでいいのだろうか。いや、今回は大丈夫なはず。自分に不信感が集まらないよう対策もしている。発言の信憑性が失われなければなんとか皆を導いていけるだろう。問題はないと自身に思い込ませながら身支度をし、彼女はコテージの扉を開けた。
 否、開けようとした。

「……え、開かない……って、罪木ちゃん!?」

 何かが引っかかっていて扉の開閉を邪魔している。無理に開けようとすれば開かないことも無かったが、隙間から一体何があるのだろうかと恐る恐る覗いてみれば、目を閉じて座りこんでいる罪木の姿があった。一瞬死んでいるのかとも思い心臓がどきりとしたが、彼女の腕に触れてみるとしっかりと体温があり、また豊かな胸は規則正しく上下に動いていたのだった。

「……ふぇ……? あ、ななしのさぁん! おはようございますぅ。えへへっ、ななしのさんがお目覚めになる時にどうしても一番に挨拶をしたくって、待ってたんですよぉ。寝てしまってましたけど……ご、ごめんなさぁい! 嫌わないで下さぁい!」

「嫌ったりしないから安心して。おはよう、罪木ちゃん。でもびっくりしたあ……。寝てたって事はしばらくここで待ってたってこと?」

「はい! えっとぉ、1時間くらい前からですね」

「1時間!?」

 モノクマアナウンスが鳴る前だ。午前6時ぐらいから彼女はここで待っていてくれたことになる。南国の島とは言えど朝と夜は気温が下がるため体には良くないだろう。彼女の肌寒そうな恰好であれば尚更の話だ。

「そんな時間からここで待ってたら風邪ひいちゃうじゃん!」

 幸いにも心配するようなことにはなっていないらしい彼女は元気に立ち上がり、ななしのの開けかけていた扉の邪魔にならない場所に立った。

「すっ、すみませぇん! で、でもぉ……大丈夫ですよぉ。体調が少しでも悪いと思ったら直ぐに自分で気づきますから。あの……今のって、そのぉ……心配してくれたんですよ……ね?」

「当たり前じゃない。罪木ちゃんが風邪ひいたら嫌だよ」

「人から心配してもらったのって、初めてですぅ……えへっ、えへへへっ」

 罪木は嬉しそうに笑い出す。朝から突然の事態に驚かされたものだが、これが彼女なりの好意の伝え方なのだろう。彼女の行動は一般的に見ればストーカー紛いのものであるが、ななしのは彼女のこんな顔を見てしまうと怒る気など沸いてこないのだった。悪気の欠片も無いのだから彼女の純粋な思いを考えれば、どこか微笑ましいものである。
 それにいつも困ったり泣いたりばかりな彼女が頬を赤らめてまで喜んでくれるのならば、彼女の好意を快く受け取ってやるのも仲間の務めだろう。ななしのも笑い返し、そろそろレストランに向かおうかと声をかけるのだった。
 レストランにはまだあまり人が集まっておらず、特に女子の姿があまり見受けられなかった。準備に時間がかかっているのか何なのかはわからない。何も無ければいいのだがとななしのは落ち着かない様子であった。罪木はと言えば、レストランに着くなり椅子に座ると艶やかな視線をななしのに向けながら口を噤んでいた。どうやら大人数がいる空間では静かにするよう努めることにしているらしい。
 彼女の熱い視線を感じつつ、全員揃うまでどのように過ごそうかとレストラン内をうろつく。顔に出てしまっていたのか、レストランの中央で堂々たる存在感を放つ十神に何の気も無しに軽く朝の挨拶をすると、おい、と呼び止められてしまった。相変わらず重量を感じさせる彼の体系と鋭い視線に、ななしのは一瞬たじろいだ。

「……何か気がかりなことでもあったか?」

「え?」

「どうもお前の様子が落ち着きなく感じてな。何かあるのならばこの俺が話を聞いてやらなくもない。こういう事態に一人で悩むのは一番危険が伴うからな」

 やはり頼りになる男である。少しの違和感も見逃さない彼の洞察力とリーダー性は今後重要になるだろう。彼と上手く協力できれば様々な困難を乗り越えられそうだとななしのは思った。

「う……ん。ありがとう、十神くん。大したことじゃなくて、みんな集まるの遅いなって思っただけなの」

「チッ、その程度のことか。大半が来ていないということは昨夜の疲れで寝坊しているだけだろう。全く……余計な気を遣わせるな。お前は自分でわからないだろうが、思っていることや感じたことをすぐに顔に出してしまっているんだぞ」

「う、うそ……!? そんなに顔に出てた!?」

 ななしのは慌てて自分の頬を両手で押さえた。十神に言われたことを気にしてしまい、羞恥によって熱くなっていく。

「隠しているつもりなのかもしれないが、俺の目……いや、大抵の人間の目は誤魔化せんだろうな。素人とはいえ、お前の表情はあからさま過ぎる」

「そんな……」

 割と衝撃的な事実だったらしく激しく落ち込んだ彼女を見て、十神はフンと鼻を鳴らした。何を傷ついているのかわからないが、どうにも気にしているところを突いてしまったらしい。フォローの言葉を投げかけようにも、困ったことに覆しようが無い事実なのである。
 彼としてはまさかこんな反応が返ってくると思っていなかった。人から好まれるのは大抵が彼女の様に考えていることが直ぐわかるような表情豊かな人間だ。相手の感情が分かり易ければ分かり易いほどに人は気を許して接してくる。それは誰とも分け隔てなくお喋りしている彼女にとっては良いことなのではないのだろうか。

「十神くん!」

「……どうした?」

「ポーカーフェイスの作り方教えてください!」

 あまつさえこんなお願いまでしてくる始末である。人間の心理状態や行動を把握する事が得意な彼であっても、彼女の発言は先が読めないのであった。
 微々たるものであるが、彼女に対する違和感だけはどうしても拭えないでいた。突然南国の孤島に閉じ込められて殺し合いをしろと謎だらけのぬいぐるみに命じられても、これは当然のことだとでも物語るかのように彼女は冷静な顔つきをしていた。あの動揺する一同の中、彼女だけはそれを装って何かを悟られまいとしていた様に、十神には見えたのだ。
 思えば狛枝が掃除の係をくじ引きで決めようとした時も、彼女は頑なに全員でやることを主張していた。弱弱しい声で柔らかく言ったつもりであろうが、甘い。彼の耳と目は誤魔化せないのである。彼以外は気づいていない様だったが、そこには何かの意図があるように見えてならなかったのである。
 しかしコロシアイを企んでいるようにはどうしても思えなかった。全員で、という意見でまとまった後の彼女の顔は、緊張の糸が途切れたかのように澄みきっていた。あくまでそこまでが彼女の求めるもので、そこから先は企みなど何一つ無いという安心しきった顔。コロシアイに繋がるような恐ろしいことが起こるなどとは到底考えられなかったのである。
 現に今こうして3日目の朝を全員で無事に迎えられそうな状況にある。一度物騒な手紙が届いていたが、こうして何事も無く平気な顔をしていられるのはもしかしたら彼女のお陰なのかもしれない。あの手紙がイタズラであれ本気であれ、本当に何事も無く楽しい夜を終えられたことはどこか奇跡染みたものだと彼は感じていたのだった。

「フン。人から教わったりしたところで簡単に習得できる様なものではない。お前の様な学の無い凡人だと、そうだな……100億年は修業を積まねば会得できんだろう」

「100億年……!?」

 彼女の頭の中では100億年ずっとループを繰り返す自分が想像されていた。例えゲームの中で何世紀と過ごせても、会得した頃には現実の体が朽ち果てていることだろう。

「うーん、だったらコツだけでもいいから教えて!」

 そう言われたところで簡単に説明できるものではない。生まれ持って苦手であったり得意であったりがある。物事に如何に動じないかは一言二言のアドバイスで大きく変化したりはしないのだ。
 けれども懸命に見つめてくる彼女の瞳の力に圧されて、遂に参考程度だがと言い出した。

「……己の非を冷静に受け止めることだろう。人は自分の持つ意見や思っていること、行動を否定されると熱くなりやすいからな」

「冷静に……受け止める?」

 何のことやらさっぱりという顔で彼女は小首を傾げた。やはり思うがまま、本能のままに生きてきた彼女には難しいことであるようだ。
 2人がそんな不毛な話をしていると、レストランへと繋がる階段を駆け上がってくる音が聞えた。

「おはようございまむ!」

 澪田だった。コテージから全速力でダッシュしてきたのか、彼女が通った道には小さく火の子の様なものがちらついていた。世界記録も驚きの速度を出していたらしい。

「全く……。これだから低能は困る。少しは静かに挨拶できないのか?」

「澪田ちゃん、朝っぱらから元気爆発してるね! おはよ!」

「ななこちゃんてばこんなんで爆発とか言っちゃ困るっすよ。唯吹の実力はまだまだこんなもんじゃねーんっすから……て、おやおやぁ? 朝っぱらから豚足ちゃんってばななこちゃんに激近っすよ! もしやもしや……これはあっつあつってやつですかなぁ!?」

「何言ってるの!? もう、そんなんじゃないんだからーっ!」

「……くだらん」

 顔を真っ赤にして澪田に食ってかかるななしのを見て、十神は溜息を吐いた。彼女の様な人間は、自分を偽るなんて罪深いことは逆立ちをしてもできないのであろう。彼女が何を求めているのか何を目指しているのかは見当もつかないが、有りの侭であることをもっと誇ればよいのに。十神は騒がしくなるレストラン内で腕組をしながらじっと2人の様子を眺めるのだった。
 やがてななしのの心配など無駄だったと言うかのように人が次々と集まってきた。相変わらず九頭龍は現れなかったが、小泉、七海、日向と順々に姿を見せる。一様に眠いと眼を擦りながら愚痴を零していた。

「あとは……狛枝と西園寺か?」

 日向がここにいるメンバーを見渡して足りないメンバーを十神に伝えた。

「チッ、まだ揃わんのか……。いい加減朝食の時間だというのに一体奴らは何をしているんだ」

 腹が減って耐えられないらしく、十神は苛々としていた。終里もテーブルの角を噛んで我慢している様だが、並べられた料理に飛びかかるのは時間の問題である。

「やあ。えっと……おはよう、十神クン」

 ふあ、と小さく欠伸をしながら狛枝が現れた。どう見ても寝坊だろうと思われるその様子に十神が小さく舌打ちをした。

「ようやく来たか……遅いぞ。どれだけ待ったと思っている?」

「あはは……ゴメンゴメン。昨日の今日でつい二度寝しちゃって。朝食を待たせちゃって申し訳ないと思ってるよ。ボクが最後だよね?」

「いや、まだ西園寺が来ていないな。あいつも寝坊か……?」

 皆の姿を眺めている狛枝に日向がいち早く答えた。彼もなかなか皆が揃わないことを気にしていたようである。

「えっ? 西園寺さんが?」

「俺も今朝は体が筋肉痛かなんかでだるくてしょうがなかったけど、それにしては遅いよな。ちょっと見て来ようか?」

「ちょっとアンタ、それ本気で言ってるの?」

 ただの親切心から出た日向の提案に突っかかってきたのは小泉だった。若干怒っているようにも取れる様に彼女は顔を顰めている。

「どうしたんだ小泉?」

「どうしたじゃないわよ。はぁ……これだから男子ってやつは。デリカシーの欠片も無いわね。無防備に眠ってるかもしれない女子の所に男子が行くなんて信じられないんだけど」

「そ、そういうことか……。悪かったよ。じゃあ俺じゃなくてさ、小泉がちょっと様子を見て来てくれないか?」

「言われなくても行くわよ」

「小泉ちゃん、1人だと何かあった時危ないよ。わたしも行く!」

 会話の流れを聞いていたななしのがレストランを出て行こうとする小泉の背に声をかけた。小泉は振り向いてありがとうと微笑む。この態度の違いに日向は何か言いたげにしていたが、男嫌いと公言されているのだから怒ったところで彼女にまた言葉で打ちのめされるのがオチである。ぐっと堪えるのだった。
 だがこのやり取りも結局のところ無意味に終わることとなった。2人が階段の方へ姿を消そうとした辺りで、件の西園寺が自ら現れたのである。ちょうど階段の踊り場になっている場所で出会い、ぶつかりそうになる。

「日寄子ちゃん!?」

「え、ちょ、あれえ!?」

「わ!? び、びっくりさせないでよね! 小泉おねぇ、ななしのおねぇ、おはよう!」

「もう、なかなか来ないから何かあったのかと思っちゃった」

「余計なお世話だよー! まあ、ななしのおねぇはすぐ人の事心配したがるお節介野郎だからねー、クスクスッ」

 昨夜と変わりなく、しかしどこか眠たげに笑顔でななしのを馬鹿にする彼女は本当にただの寝坊であると言って2人と一緒にレストランへ戻る。
 心なしか昨日の朝よりも彼女の髪型や服装が乱れている様に見えるのだが、それは昨夜はしゃぎ過ぎ、調子に乗って暴れたせいだった。自分で直そうとしたのだが結果的にどうする事も出来ず、遅刻をしてしまったのである。
 2人は少し彼女の見た目の違いを気にしていたが、今こっそりと聞いても話をはぐらかされてしまったため、これがわかるのはもう少し後の事になる。
 何にせよ、これで全員の無事が確認できたわけだ。1人まだ眠りの中にいるか、ふらりとどこかを歩いているであろう少年を除いて。

「ようやく集まったな……。待ちくたびれたぞ。では、3日目の朝食を始めるとするか」

 十神の言葉により一同はお待ちかねの朝食へと飛びついた。文字通り飛んでかぶりつくのは終里だけであったが、それぞれ思い思いに好きなことを話しながら、昨晩のことを語りながら食事をする。コロシアイなんて起きる予感を微塵も感じさせない和やかな雰囲気で。
 これがいつまでも続けばいいとななしのは思う。されども死神は許してくれないのだ。いつどこで鈍色に光る鎌が振り下ろされるか、どこに潜んでいるのかなど彼女には分かりはしないのだ。
 彼女の不安を忘れさせるかのように、修学旅行3日目は賑やかな始まりを迎えたのだった。



@2014/4/6
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