夢小説長いの | ナノ



04


 体育館のステージに寝ころんだまま、ふあ、と欠伸を漏らす桑田。眠いのではなく、退屈なのだ。体を動かすのは面倒だとはいえ、何もしないままこの体育の時間を過ごすのはそれはそれで辛い。かと言って一緒になってやることは絶対にしないのだった。
 外にあるバッティング場にでも行ってこようかと腰を上げ始めた時。

「いいなぁ。ボクも混ざりたい」

 わいわいと騒がしい光景を見ながら、不仁咲が呟いた。

「つーかさ、なんでオマエはこっち側にいるワケ?」

「えっと、言ってなかったっけ。ホラ、これ……」

 するりとスカートをめくり、恥じらいながらも履いていたニーハイを脱ぐ。そこから出た生足に一瞬どきりとするが、そういえばと思い直し思考を正す。
 しかし何のためにわざわざ脱いだかといえば、彼女の足首には白い包帯が巻かれていたのだった。捻挫である。

「悪ィ悪ィ。記憶力ねーからよ。しっかし、階段から落ちたにしては軽い怪我で済んで良かったよな」

 つい先日のこと。階段の真ん中あたりの段を踏み外してしまい、一番下まで落ちてしまったのだ。その時に負った捻挫がまだ癒えず、今回は見学だけで我慢することになった。最初からだるい、休みたいと思っている者にとっては羨ましいことこの上ないことだが、混ざりたいと漏らす不仁咲本人には悲しいものでしかない。足首をさすりながら苗木たちを眺める瞳からは悔しさが感じられる。

「うお! まだ治んないんだべか。見てて痛々しいべ……南無南無」

「あはは。でもだいぶ痛みは無くなってきたからもうすぐ包帯も取れるよ」

「不仁咲も結構ドジるねー。ま、ななしのもなかなかなモンだけどさ。この間は何もないトコで転んでたし!」

 昨日のことを思い出してぷぷぷと笑う。あそこまで綺麗に転ぶのも珍しいものだ。ある意味貴重なものを見たのかもしれない。

「一日一回は転びそうになってるべ。三半規管が弱いんだべか?」

「葉隠の占いが当たる確率よりも、高確率で運悪ィよな」

「桑田っち、それは言わないでくれ」

 三割当たるという彼の言い分が正しいのかどうかはわからないが、そんじょそこらの占いよりは一応当たるからここにいるのだろう。その特技も普段はあまり見られることは無いが。

「うーん、今日も転んでたからね」

「またぁ!? 何も無いとこで?」

「えっとぉ……廊下の角でななしのさんとボクがぶつかりそうになって、ななしのさんが道を譲ってくれたんだけど……」

 不仁咲ちゃんお先にどうぞ、と笑いながら道を譲ってくれた彼女だったが。近くに柱があることを忘れていたらしく、その方向に避けてしまい、ぶつかって転んでしまったそうだ。

「鞄の中身が廊下に散乱しちゃって、可哀想だったよぉ」

 おそらくその中身を片づけるのに、不仁咲も手伝ってあげたのだろう。二人であわあわと作業する場面が誰の目にも浮かんでいた。

「フーン、そういや今日はあの子鞄二つ持ってたっけ。なんか面白そうなものあった?」

「オイオイ、江ノ島……それは聞いていい事なのかよ?」

 普段は手提げ鞄一つだが、今日はもう一つ持っていたことをクラスメイト全員が目撃していた。しかし、それも当然である。朝に女子全員が男子への義理チョコを振る舞っていたのだ。きっとそれのために手持ちが増えてしまったのだろう。

「う、うーん……。ボクたちが貰ったチョコが幾つか散らばってたけど。その中に別にラッピングされた袋があったような……」

「マジで!?」

「うお、桑田っちがいきなり元気になったべ!?」

 気怠げに寝転がっていた桑田が立ち上がった。どういうことだろうと不仁咲はぽかんとして見上げていたが、少しして自分の発言の意味に気づく。つまりは。

「ヘェー。ななしのに本命がいたとはねぇ」

 そういうことである。年頃の女の子がこの手の話を聞いて気にならない理由などない。にやにやとする江ノ島。

(なるほど、これをチャンスにしようってワケか。ななしのっポイやり方!)

 あげる相手が誰なのかはもちろん見当がついている。それが桑田でないのは確かだったが、何をするのか、面白いので黙っていることにしたらしい。知らぬ振りを装った。

「な、内緒だよ! 絶対他にバラしちゃだめだからねぇ!」

 必死に隠そうとするが、言ってしまっては後の祭である。

「わかってるって! へへッ、んじゃちょっとアピールしてくっかな〜」

 何を今更したところでななしのの想う相手は変わらないはずだが、やけに張り切っている。彼はステージから飛び降りてななしのの元へ向かって行く。しかしまだ試合の最中で、ちょうど山田チームの十神がスパイクを決めるところだった。

「十神家に代々伝わる奥義を食らって地にひれ伏すがいい、愚民共!」

「白夜様のスパイクが拝めるだなんて……! あたしが全力で受け止めさせていただきますぅ!」

 十神の相手側のコートで、恍惚とした表情で構える腐川だったが、当然のごとく白夜は視界にすら入れてくれはしない。ここは綺麗に決めてやろうとボールに合わせて飛び上がり、打つ。

「おーい、ななしのちゃん! オレも入れてくれよ!」

「あ、桑田くん! いーよー」

「ななしのさん! 前!」

「え」

 鈍い音がして、彼女に当たる。腹部にクリーンヒットである。一瞬体が宙に浮いて、背中から床に倒れた。
 彼女がレシーブできないと可哀想だと思ったのか、十神が少し気を遣って彼女の受けやすい位置、ちょうど腹の辺りをわざと狙った。それが良かったのか悪かったのかはわからないが、顔面でないだけマシだったことを考えれば良かった方なのだろう。

「な……! ななしの!?」

 もちろん打った本人も驚きを露わにしていた。そんなに強く力を入れたつもりはなかったが、ななしのの体では受け止めきれなかったらしい。

「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

「う、うー……」

 舞園の呼びかけにも唸るだけ。しかしお腹の痛みよりも後頭部を強かに打ちつけてしまい、そちらの方が痛みがひどいのだ。
 確かなのは、みんなの自分に呼びかける声が聞こえる事と、体が思うように動かない事だった。





●つづく。


@2012/02/20
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