夢小説 | ナノ


指先に、愛を込めて


「キィィーッ!!」

「ひゃああ!ごめんなさい!食べないでくださいぃいぃ!!」

「チャンPは貴様のような下等な人間など食さん、安心しろ」

「それ、喜んでいいのか落ち込んだ方がいいのかわかんないんだけど…」


菜々子が触り損ねたハムスター チャンPは

主である田中の手の上で毛繕いを始めた


その姿を愛おしく思いつつも

さきほど威嚇された際に一歩後ろへ下がった菜々子は

少し離れた場所からそれを見つめていた


「何を臆する、たしかに四天王の力の前にひれ伏したくなる気持ちはわかるが、意味もなく人間に危害を加えたりはせんぞ」

「う、うん…わかってはいるんだけど…どうしても苦手で…」


そう、菜々子は動物が苦手なのである

牧場にいる動物たちにも極力は近づかないし

あのモノミのことも最初は動物だと思っていたため

ぬいぐるみだとまわりが諭してやっと近付けるようになったくらいだった


「そんなに恐れおののくのであれば、もとより近づかなければいい…なぜわざわざチャンPに手を伸ばすのだ」

「それは、えっと…」


田中君のことが好きだから その口実に

などと口が裂けても言えない菜々子は

どうやってごまかそうかと思考を巡らせた


「ど、動物が嫌いなわけじゃないんだよ?むしろすっごく大好きなんだけど、どうしても怖くて…」

「それは普段のお前を見ていればわかる、びくびくしながらも遠くから愛おしそうに魔獣たちを見つめているからな」

「そうなのー!とくに田中君のその四天王たちがほんっとにかわいくて…!触りたくても触れないもどかしさっていうか…」

「ふっ…これがこいつらの仮の姿とも知らずに、まんまと魅了されたか…哀れなやつだ」

「チャンPたちだったら田中君が従えてる子たちだし、いざとなったら田中君が助けてくれるかなって思って…!」

「助けるもなにも、チャンPたちは何もしなければ危害は加えん…お前の触り方が悪いのだ、上から覆うように手を伸ばせばチャンPも驚くに決まっているだろう」


そこまで言って田中は何かを考え込むように押し黙る

もしかして怒ってしまったのではと菜々子は不安に思いつつ田中の言葉の続きを待った

「仕方ない…特別に我が力をほんの少しだけ貴様に分け与えてやろう…幸運に思え」

「あ、ありがとう!」


菜々子は動物の扱いを教えてもらえることがどうということよりも

田中がわざわざ自分の為に時間を割いてくれることのほうがうれしく思えたのだった




田中が菜々子を連れてきたのはスーパーだった

そこで田中は真っ先にある場所へ歩いて行った

そこにあったのはひまわりの種

何度も通っているので もう場所を記憶してしまっているようだった


それを持って 田中は菜々子を連れてコテージへ戻る

はいれ、と短く言われた菜々子はまさか部屋に招き入れられるとは思っていなかったため

急に恐ろしく緊張し始めていた


(さ、さっきまでも二人きりだったけど、田中君の部屋で二人きり…なんて)


バクバクと自分で聞こえるほどうるさく脈打つ心臓を落ち着かせるために必死で

菜々子は田中の部屋の中を気にする余裕がなかった


「さぁ、ひと時の休息を楽しむがいい」


田中がそう言うと、四天王たちはマフラーから飛び出した

そしてそのまま各自ゲージへもどっていく


田中が何か指で合図を出すと チャンPだけが田中の手の上へ残った


「菜々子、さきほどの供物を出せ」

「あ、はい!」


田中に言われた通り先ほどのひまわりの種の袋を開けて中身を取り出すと


「あいているほうの手を、こちらへ向けろ」


と田中が指示を出す


菜々子右手にはひまわりの種が数粒 左手はあいていたため

その左手を田中の方へ差し伸べると

田中はそっとその手のひらにチャンPを乗せた


「あ、ううう!」

「大丈夫だ、貴様がおとなしくしていればなにもしない」


恐怖で震える菜々子の左手を田中が掴んで チャンPが落ちてしまわないよう固定する

が、それは余計菜々子の緊張を誘うことになる


(田中君!!さ、触ってる!私の手触ってる!いっつも触っちゃダメって怒るのに!)


「右手の供物を近づけてみろ」

「う、うん…」


菜々子は左手に乗っているチャンPへ右手を恐る恐る近づける

チャンPは菜々子の顔をちら、と見たが
その隣に主である田中が見えたので特に警戒せず菜々子の右手の中にあるひまわりの種を一つとって食べ始めた


「うわぁ!食べてる!」

「正確には蓄えているのだがな…」


右手にのせていたひまわりの種はあっという間にチャンPの頬袋に収まる

手持無沙汰になり チャンPはきょろきょろとあたりを見渡している


「右手で、触れてみろ」

「え、う…」

「上からではチャンPは警戒する、やや後ろから頭を撫でろ」


言われた通りに そっと手を近づけてみる

なにより菜々子はその様子を隣で見ている田中が近すぎることにさらに緊張しているのだが

田中はそのことには気づいておらず チャンPを恐れているのだろうと勘違いしていた

震える菜々子の右手はちょん、とチャンPに触れた

先ほどのように威嚇したりせず、チャンPはその手を受け入れた
「さ、触れた!触れたよ田中君!」

「あ、ああ…」


あまりの嬉しさに満面の笑みを田中へ向けた菜々子に

田中はやっとその距離の近さに気づき一気に顔を赤くする


「初めてこんなに近くで見たけど毛並がすごくきれいだね!田中君がしっかりお世話してあげてるんだね…」

「とっ当然だ…」


田中は完全に菜々子の左手を掴んだ右手を離すタイミングを見失ってしまい

必死にあいている左手でマフラーを上げて顔を隠す


「田中君に愛情いっぱい注いでもらえるなんて、羨ましいなぁ…」

「…な」

「え…?」


(私、今なんて言った?)


自分の何気ない発言がかなりの爆弾発言だったことに気づくまでしばらくかかったが

気付いた時にはもう遅く 菜々子も田中も顔を真っ赤にしていた


「ち、違うの…へ、変な意味じゃなくてね?チャンPたち幸せだろうなって!」

「…っ」


必死に弁解したがもう手遅れだった

さすがの田中も先ほどの言葉で菜々子の想いにうっすらと確信を持ててしまい、何も言えなくなってしまった

何も言わない田中を見て あきれられた、と菜々子は落胆し

顔が赤いまま下を向いて落ち込んでいると


ふ、と頭に何かが触れた


「…よーしよしよし」

「え…」

「…っ!!」

「た、田中君…今…」

「く…!こ、この邪腕の封印を解き放ったのは貴様だからな!俺様は今まで封印が解けぬよう日々力を抑えていたというのに…!


田中の言葉が 菜々子には理解できなかったが

実は田中は菜々子を見るたび溢れる愛おしさを必死に抑え

菜々子に"よーしよしよし"したい衝動と毎日戦っていたのだ


「え、えっと…封印といちゃったなら…ごめんなさい…?」

「…責任を、とってもらうからな」

「え…責任?」


菜々子はいったい何をさせられるのかと若干恐怖を感じた

だが 田中の口から出た言葉は予想外のものだった





「…俺と付き合ってください」





普段の彼の口調とはまったく違う言葉だったことに一瞬とまどい

しばらく放心状態だった菜々子だったが

やっとのことで言葉を受け入れ そしてその言葉があまりにも嬉しすぎたため

菜々子はついに泣き出してしまった

そんな菜々子にまた田中は"よーしよしよし"をするハメになるのだった



指先に、愛を込めて
(よーしよしよし)
((い、いかん…ほかのどんな魔獣共よりも撫で心地が良いだと…!?))
(た、田中く…あの…っいつまで…)
((なんという中毒性の持ち主…!や、病みつきになりそうだ…っ))




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