夢小説 | ナノ


秋ですか。@狛枝夢


 放課後のことである。ちょっといいかなとクラスメイトの少女に笑顔で声をかけられた狛枝は、超高校級のキミのためならと帰り支度も適当に済ませ、誘導されるがままその後ろをついて行った。他のクラスメイトのはやし立てる様な声を背に受けながら。
 そうして辿り着いたのは車通りの少ない、住宅街だった。特に変わったところも不審者も怪談話もない、いたって一般的な住宅街である。ちらほらとご近所とおしゃべりをする主婦や外ではしゃぎまわる子供がいるが静かで平和な風景を見ることができる。

「ねえ、ボクをどうしてこんなとこに連れて来たの? ああ……ゴメン。ボクなんかが聞いていい事じゃなかったら謝るよ」

「大したことじゃないんだけどね。狛枝くんならなんとかしてくれると思って」

 思いつめたような顔の彼女の期待に応える事ができる。考えただけで心が震える。

「任せてよ! 七篠サンのためならなんでもするからさ」

「ありがと。頼もしいよ。だったら早速、焼きいも屋さんに会いたいって思って!」

「えっ?」

 どんな難しいことでも、たとえばここの住宅の人たちを一人残らず惨殺してきて、なんて言われても喜んで実行するほどに覚悟を決めていたのに、だ。少女の口から放たれた言葉はなんとも可愛らしい、小さな願いだった。

「狛枝くん、さあ、はやく! きみの幸運の力があればきっと会えるはずだよ!」

 少し恥ずかしいのか頬が赤く、顔を狛枝の方に向けようとしない。まっすぐ住宅街の道路の向こうを見ている。

「七篠サン?」

 狛枝は面白がるように彼女の前に回り込む。そして少し屈んで首をかしげると彼女の顔がはっきり見えた。

「もううう……わたしの顔覗きこまないで!」

「あはは、わかった。お安い御用だよ。それにしてもなんで焼きいも屋さんに会いたいの?」

「焼きいも食べたいからに決まってるじゃない……」

 なのにどんなに彼女が会いたいと思っても会えず、やっと会えたと思った時には追いつけないようなスピードで去ってしまうらしいのだ。

「でも今はホラ、スーパーとかにも売ってるわけでしょ。どうしてかなって。虫ケラ以下のボクの質問だから、答える必要なんて全く無いんだけどね」

「だって、できたてだし、ああいうのってその辺で売ってるのより美味しそうに感じない?」

「ああ、教えてくれてありがとう。へえ、キミはそういう風に考えるんだね。うん、確かに一理あると思うよ」

 こうして焼きいものなんたるかを少女から聞き出しているうちに、車のエンジン音らしきものと『焼きいも』の単語をノイズ混じりに放つ渋い声が背後から聞こえてきた。くるりと振り返る少女の目にやがて映り込む白いトラックは、見紛うことなく、待ち望んだ『焼きいも屋さん』であった。

「こここ狛枝くんありがとう! ほんとに、ありがとううう! ちょっくら行ってくる!」

「会えてよかったね。いってらっしゃい」

 嬉々としながらトラックへ向かう彼女の背に軽く手を振る。走るトラックの進行を止めて、中にいるおじさんと興奮気味に話をしている。
 無事に焼きいもを買えたらしい彼女は、そんな狛枝の元へ茶色い袋を抱えて大急ぎで戻ってきた。

「はい、狛枝くんの分っ」

 差し出された一本の焼きいもを前にして狛枝は戸惑う。

「えっと……」

「わたしの我儘に付き合ってくれて、ありがとうの、お礼」

「そんな、ボクは大したことしてないよ。それに、キミに物を貰ったりしたら、クラスメイトの2、3人は軽くいなくならなきゃ釣り合いがとれない。……そんなの七篠サンに悪いよ」

「だったら『狛枝くんはわたしに無理やり焼きいもを食わせられた』って解釈すればいいよ。ほら、わたしのあげた焼きいもが食えないってのかー!」

「あはは……参ったよ」

 降参した狛枝は彼女から焼きいもを受け取る。できたてのうちに食べるのが基本、と自論を唱える彼女の顔は、子供のように無邪気に笑っていた。



●終わり。

clap thanks!!

@2013/09/11



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