夢小説 | ナノ


秋ですね。@左右田夢


 ぱちぱちと火花が散る音が鳴る。音源は赤や黄色に紅葉したたくさんの葉っぱが燃えているところにあった。火はだいぶ弱くなっており、程よい温度であるのか少女はそこに遠くから手をかざしている。
 燃える落ち葉の周りには鉄串が何本か突き刺さっており、その先にはサツマイモが刺さっている。焼けるまでもう少し待たなければならないのだが、かれこれ30分ほども待っている彼女には苦行である。

「焼けろー焼けろー早く焼っけろー」

「オイ、学園の敷地でなにやってんだよ?」

「げええ、左右田くんじゃん!」

「その反応やめろよ! 悲しくなるだろーが!」

 既に悲しいのか涙目である。
 生徒が自由に使っていいとはいえ、何かが燃えるような臭いとクラスメイトが落ち葉の山の周りをうろうろしていたら何をしているのかと気にならない訳がない。怪しい儀式でもしているのかと声を掛けただけなのだが、酷い扱いを受ける羽目になっただけであった。

「見てわからない?」

「あ? 焚き火か? オメーにそんな趣味あったなんてなぁ……。火を点けるのは落ち葉だけにしとけよ? 間違っても放火なんてすんじゃねーぞっ!?」

「左右田くんの中でわたしはどういうキャラになってるの」

 どう聞いても危険人物の扱いである。もちろん彼女はそんなことをする気はないが、左右田に火をつけてやろうかという気は一瞬湧いていた。

「でもね、ただの焚き火だと思ったら大間違いだよ」

「何ぃ!? やっぱりアレか……」

「アレって?」

「ソニアさんが言ってたんだけどよぉ、なんでも西洋の方だかに火を囲んで悪魔を呼び出す儀式があるとか」

「それをもしやる人がいるとしたら田中くんぐらいだと思う」

 彼のソニアへの信仰っぷりは困ったものである。愛だの何だのとのたまっているが傍から見れば盲目すぎるだけだった。
 少女は鉄串を少し引いてサツマイモの焼け具合を見る。アルミホイルに包まれており中身をすぐに窺い知ることはできなかったが、串の刺さり具合でもうちょっとかなと判断した。

「うお! イモじゃん、サツマイモ!」

「もう少しで焼けると思う」

「マジで!? あー……」

「なに? まさか食べたいとか?」

「へへ、やっぱバレバレだよなぁ」

「えーやだー」

「チクショー! わかってたけど、即答されるとスゲー傷つく!!」

 またも涙目な左右田を見て、今日はちょっと虐め過ぎたかもしれないと少女は少し反省した。イモは3つある。彼女には十分食べきれる量ではあるが、どうせ焼くならと持って来過ぎたかもしれない。

「左右田くんが、くだらない話をしてわたしの空腹を紛らわせてくれるなら……いいよ」

 悔しがっていた左右田の顔が見る見るうちにやる気に満ちていく。

「おっしゃあ、まかせろっ! くだらない話なら得意だぜぇっ!」

「ホントにくだらなかったらあげない」

「うっせー! オレがお前の空腹ぐらい紛らわせてやる!」

 もう目的が違うのではないかと少女は呆れたが、イモが焼けるまでの暇つぶしに左右田がいてくれれば飽きることはない。いい提案であると少女は満足気に笑った。
 それに、1人で黙々とイモを頬張ることを想像するより、ちょっとうるさいのが隣にいるのを想像した方が悪くない気がした。



●終わり。

clap thanks!!

@2013/09/11


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