夢小説 | ナノ


夏の思い出になれ@田中・左右田+罪木


 そうだ、花火をしよう。誰がいい出したか今となっては定かではないが、大賛成の声が次々とあがり、砂浜にてそれが行われる運びとなった。
 その為には準備が必要である。女子はもちろん協力的かつスムーズに事を進めてくれるメンバーが揃っていたが、力仕事は苦手だ。それには男子の力が必要である。だからといって男子だけに任せるとモノクマ顔負けの珍事を引き起こすこととなるやもしれない。そこで日向の統率の下、なんとか上手い具合に役割分担を平等に振り分けてもらうことにした。

「で、なんでオメーと一緒なんだよ……」

「知らん」

 ロケットパンチマーケットでの花火の調達係は左右田と田中に指名されていた。罪木も一緒にいたのだが、ドラッグストアの方に行っている。万が一火傷した場合の薬を取ってきてから、ここで合流することにしているのだ。

「あーだりぃー。ソニアさんと一緒が良かったぜ」

「貴様の邪念に満ちた考えは日向に筒抜けだ。なんせ奴は悟りの能力を会得しているのだからな」

「ハァ!? アイツそんなことできんのかよ!? そんなスゲーやつだったなんて知らなかったぜ……。道理でオレの欲しいものをわかってるみてぇに渡してくれるわけだ。てか、わかってんならソニアさんと一緒に……!」

 泣きそうな声で騒ぎ立てる彼の手はもはや花火を選出するために動いていなかった。その隣で黙々と花火をカゴに詰めていく田中。全ての花火を持っていくと砂浜が火事になってしまう程の量だったため、手持ち、噴射、打ち上げとを適当に合わせて持って行こうという計画になっているのだ。

「む……」

 田中があるものを手にした時、今まで手際よくいっていた作業が動きを止めた。手に持つそれは、今まで選んで仕分けしていたものとは別の、細い糸のようなものがいくつも束になっているものだった。

「そりゃー線香花火だな? っくー! 花火の有終の美を飾るのはやっぱそれだよなァ!!」

 突然嬉々として声を上げる左右田を横目に、無言でそれを棚に戻そうとする田中。

「って、オイ!? なんだよ、なんで戻しちゃってんだよ!!」

「なにやら邪悪な波動を感知したのでな」

「バッカヤロウ!! それがな
きゃ締まんねーだろうが!」

「二人ともー。持ってく花火の準備できた?」

 自動ドアからひょっこり現れた少女を見て、左右田の顔がみるみる歓喜の色に染まっていく。

「菜々子ちゃん! どっ、どどどうしたんだよ!? まさかオレのことが気になって……」

「うん、心配で来ちゃった。向こうの準備が思ったより早く済んだからね」

 彼女の担当はちょっとした料理を砂浜で食べるため、アウトドアテーブル用品を並べることだった。力仕事になるため弐大や終里たちと一緒だったはずだが、2人の活躍により予想以上に早く終わったらしい。
 聞けば澪田たちは『せっかくだからライブもやっちゃうっすよー! 野外ライブですとろーい! ひゃっほーい!!』とライブの用意まで始めだしたそうだ。料理を運ぶ組はまだもう少しかかるという話だった。

「いい感じのあった? ゛どかーん!゛ってでかっかいやつとか!」

「あー……」

 左右田はしゃべってばかりで手を止めていたため、どんなものがあるのかわからない。気まずくなりちらりと田中の方を見れば線香花火を持って行くか行くまいか、迷っている様子だった。

「左右田くん……まさか田中くんに全部やらせてたとか、そんなことないよねー?」

「オッ、オウ! もちろん見つけてたぜ、でっかいヤツ!」

 十中八九嘘だが、女の子の前ではどこまでもいい格好でいたがるようだ。彼と話をしても話が進まないと判断した彼女は、左右田を避けて奥にいる田中の様子を覗いた。

「ッ!? 貴様、いつの間に背後に回り込んだ!? 俺は今、いかに貴様らを血祭りにあげてやろうかと火薬の多いものを選定中だというのに」

「今日は血祭りじゃなくて火祭りだよ! わあ、それ線香花火じゃない。小さいしすぐ落ちちゃうけど、その切なさがたまらないんだよね」

 期待している爆発的威力の花火ではないが、やはり彼女もまた線香花火にロマンを抱いているようで、それを見ただけで心を躍らせた。

「ククク……たまには儚き灯火を静観するのも悪くない、か」

 そっと線香花火の束をカゴに入れた。これであとは砂浜まで運ぶだけである。しかし今のやり取りにどうにも納得がいかない左右田は田中に詰め寄った。

「あ!? 田中テメーきたねーぞ!! さっきオレが勧めてた時は戻そうとしてたじゃねーか」

「そうなの?」

「それは貴様が邪悪なる計画の元、俺様を陥れようと企んだからだろう」

「ちげーよ! あわよくば、ソニアさんや菜々子ちゃんと一緒に……って思ったのは認めるけどよォ」

「線香花火をわたしと? いーよー。どっちが長く保つか対決ね!」

「マジで!?」

「なん、だと……! その戦い、俺を差し置いて開催するなど許さんぞ!」

「うっせー、先に菜々子ちゃんと約束したのは俺だからな!」

 収集がつかなくなってしまった2人の争いに段々と飽きてきた彼女は、花火の入っているカゴを見てよくまあこんなにあったものだと感心した。
 急に自動ドアが開く音がして、3人は話すのをピタリとやめてそちらに視線をやった。

「た、ただいま戻りましたぁ……って、ふぇ? 七篠さぁん、お手伝いしに来てくれたんですかぁ?」

「あ、そんなとこです。罪木ちゃんは?」

「ふゆぅ……みんなが怪我した時のために救急セット取りに行ってたんですぅ」

「さっすが罪木ちゃんっ。こっちは終わったみたいだから早く砂浜に持って行こう!」

「はぁい。はふぅ……こんな風にみんなでわいわい遊ぶの初めてで……ドキドキしますぅ!」

「田中くんも左右田くんも、早く行こー! みんなきっと待ってるよ!」

 2人は口論をやめて慌てて花火のカゴを持つ。今頃は澪田あたりがフライングライブなどと言って、場を盛り上げてくれてる頃だろう。
 夏の待つ海岸へと、4人は急ぐのだった。



●終わり。

clap thanks!!

@2013/8/26


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