夢小説 | ナノ


恋愛してみませんか


 美味しいドーナツ屋さんがあるから、放課後みんなで行かない?と誘いを受けた女子数名は、授業が終わるやいなや口元をほころばせながらいそいそと帰り支度をし始めていた。もちろん誘い主は朝日奈である。

「朝日奈ちゃんてばドーナツに関してホント耳が早いね。その情報どっから掴んで来たの?」

 その誘いを一番に受けた七篠が期待に胸を膨らませながら聞いた。

「昨日1コ上の先輩から教えて貰ったんだ。 あたしがドーナツ大好きだって知ってたみたいで、わざわざ隠れ名店を調べて来てくれたの!」

 学園の周りにある有名なドーナツ屋は既にコンプリートしており、あとはガイドブックに乗らないような知る人ぞ知る店くらいしか残っていなかった。朝日奈もまだこの辺が詳しくはないため、なかなかそういった店を調べるのに苦労していた様子。
 そして情報を得ると、クラスメイトを誘い、ドーナツ屋巡りをするのが今やお決まりになっていた。その時次第でメンバーは代わるが、今日は舞園と江ノ島、そして七篠の4人で行くらしい。

 朝日奈は今にも教室の窓から飛び出さんばかりに興奮しているが、勘の鋭い女子はその先輩について少し気になることがあるようで。
 その女子2人、江ノ島と舞園は目を合わせる。勘の鈍い朝日奈と七篠は小首を傾げている。
 江ノ島と舞園は一瞬目と目で無言のやり取りをし、何かを伝え合った。いたずらな笑みを浮かべて朝日奈に視線を戻す。

「もしかして……その先輩とは男性ではないですか?」

「うわ! なんでわかったの!?」

「だって私、エスパーですから……なんて冗談です。2択ならエスパーでなくとも当たりますよ」

 納得したような表情で舞園は微笑んだ。七篠はまだ内容を理解していないようで、小首を傾げながらなんのドーナツを食べようか考えていた。授業後のため当然お腹が空いている。
 しかしそれを聞いた江ノ島があとに続いて問い詰める。

「んじゃーさっ、教えてもらった時にそいつに一緒に行こうとか言われなかった?」

「うーん……あ、言ってたかも知れない!」

 なんてこと、先輩哀れ惨敗。江ノ島は腹を抱えて笑い出した。舞園は相変わらずのアイドルスマイルだったが、内心呆れていた。
 どう考えてもデートのお誘いである。それを軽く受け流してしまうのは朝日奈らしいと言えばそうなのだが、先輩は何とも不憫である。

「なになに!? どうしたの? なんで笑うのっ?」

「わたし達にも理解できるように教えてよー!」

 ドーナツの事しか頭になかった七篠と朝日奈は文句をぶつけるが、当然素直に言ったところで2人特有の鈍い返答が返って来るだけなのはわかりきっていた。

「いやあ、朝日奈ったら罪な女! 無自覚っておっそろしーい」

「私は何にもしてないってばー!」

 女の子というのはこの手の会話が大好物である。ドーナツよりも恋愛話に食いついてしまい、徐々に当初の目的から離れつつあった。

「七篠さんも、ここまで言えばなんの事だかわかりますよね」

「うん! 葵ちゃんがドーナツ食い過ぎて試合に出れなくならないように心配してくれたんでしょ! 後輩思いな先輩だね」

「はずれです。かすってもいないですよ」

「ちょ、七篠マジない。その発想はねーって!」

 ボロクソである。七篠は慣れているのかへこむことなく、ええ、じゃあ何かなと眉根を潜めて考え込む。考えたところで察しの弱い彼女にはまだ手掛かりが足りない。

 この会話はもちろん、4人だけの耳に入っていた訳ではない。教室内に思いきり響いていた。幸いなことに男性陣はいなかったが、まだ机で何か作業をしている霧切には当然聞こえていた。

「ちょっと、静かにしてくれないと集中できないんだけど。……で、ドーナツ屋に行かずに一体なんの話かしら」

 聞いていないふりを装っていたが、やはりそこは女の子。興味をそそられていたようで会話に加わる。

「霧切さんはもうわかっているんですよね?」

「まあ、嫌でも会話が聞こえていたから。そこのちょっと頭の堅いお馬鹿さんに比べたらよっぽどね」

 その頭の堅い彼女は少しでも柔らかくしようとずっと試みていたが。

「ん! わかんない!」

 早々にギブアップのようだ。むしろ考えることを放棄したと言った方がいいのかもしれない。あまりに潔い投げ出しっぷりである。

「仕方がないわね、ヒントよ。男と女、お誘い、放課後……ここまで言えばわかるわね?」

 最初はピンと来なかったのか首を捻るも、さすがにわからない訳もなく。

「…………! あ! デートか! デートなのか朝日奈ちゃん!」

「正解ですけど、声が大きいですよ。落ち着きましょうね」

「えっ、あたしにデートのお誘いだったの? どおりで先輩がやけにもじもじしてるなと思ったら」

 その時点で察してやるべきである、と突っ込みたい人が数名いたが、彼女はドーナツと聞くとそれ以外は考えられなくなってしまうから致し方ない。

「で、朝日奈はどーすんのさ。今から先輩に声かけてやってもいいんじゃね?」

「このままでは少し可哀想ですからね」

「うう、あたしはそれよりも……」

 ちらりと七篠に目配せする。すぐに意味を理解したようで、目の色が輝いた。

「ドーナツだよね!」

「さっすが七篠ちゃん、わかってるー!」

 この二人は食い気に勝てないようだ。ドーナツのこと以外は後回しということで、先輩には後日、ドーナツ屋巡りに付き合ってもらったらしい。




●終わり。



∴あとがき

霧切さんに『ここまで言えばわかるわね』と言わせたかった話。そのセリフをどうでもいい推理で使いたかったのです。
女性陣全員じゃなくてすみません!





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