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トリートしなかった!@罪木夢


 男子たちを仮装して驚かせて、イタズラしちゃおうという計画が密かに立てられていた。せっかくのハロウィンだし何かやりたい、と七篠の提案でそのイベントを発足するに至ったわけであるが、女子たち全員が全員こそこそしていれば誰かしら感づくであろう。実行係と待機係何人かで分かれることとなった。
 どうにもジャンケンに弱い彼女はその実行者の中に加わることができなかった。だが何もそれに入れなかったからといって終わりではない。コテージで待機して仮装した彼女たちが来るのを待つという役目がある。男子の方を回ったらみんなでお疲れ様会でもやろうか、ということにもなっていた。
 そろそろみんな回りきった頃だろうかと、やきもきしながらコテージ内のベッドに寝そべりその時が訪れるのを待つ。さっきまで誰かの叫び声や悲鳴に似たようなものが聞こえていたため、恐らく盛り上がっているのだろう。来年は絶対実行の方に回りたい、と考えていると部屋のドアがノックされた。返事をしてわくわくしながらドアを開けると、そこには包帯でぐるぐる巻きの衣装を纏った罪木がいた。どこかに引っかけたのかところどころ弛んでいる。

「うえぇぇん……七篠さぁん……!」

「どっ、どうしたの罪木ちゃん!?」

「イタズラ……できませんでしたぁ……」

 どうやら彼女は日向のところに当たったらしい。彼はたまたまお菓子を持ち合わせていたようで、ハロウィンの意図を思い出すと快く罪木にクッキーを渡してくれたというのだ。西園寺にしっかりイタズラしてくるよう言われていたらしく、しかしそんな結果に至れなかった彼女はどうしようとうろたえて泣いている。西園寺もこんなことで本気で怒ったりはしないだろう。罪木をコテージ内に引き入れて慰めてやると、何とか落ち着きと笑顔を取り戻してくれた。

「えへへ……七篠さんに優しくされたらなんだかほっとしましたぁ。ありがとうございますぅ」

「どういたしまして。それより、ほら、わたしに言う事ない?」

 罪木は不意を突かれたような顔をして慌てた。本来ならば××の部屋に来た時点で発するはずであった言葉なのだが、すっかり頭から抜け出てしまっていたらしい。

「えとえと、えっと……トリック・オア・トリート、ですぅ!」

 やっと思い出した彼女は嬉しそうに笑ってそう言った。そんな彼女に応じて××も満面の笑みで両手を挙げて見せた。開かれた彼女の手には何もない。そう、訪問してきたお化けに渡さなくてはならないお菓子を彼女は持っていないとアピールしたのである。

「ざーんねん、お菓子持ってないのでした!」

「ふえぇぇぇ!? あのぅ、それはどういう……」

「さて、罪木ちゃんはわたしにどんなイタズラをしてくれるの?」

「わっ、わざとですかぁ!? そんな、七篠さんにイタズラだなんて……」

 困ったように目を伏せた彼女は小刻みに震えだした。七篠から今彼女がどんな顔をしているのか、その様子はちょうど罪木の長い髪の毛で隠れて見えない。

「ふ……うふ……うふふ」

「大丈夫? どうか」

「はああああぁぁん! ではではぁ、いーっぱいお注射してもいいってことですよねぇっ!?」

 七篠に向けられた彼女の顔はとても幸せそうな、天にも昇るような気持ちといった笑みを湛えていた。火照り赤く染まる頬に手を当てて喜びにうち奮えている。そしてもう片方の手には一体どこから出したのだろう、太い注射器を持っているではないか。鋭い針の先が蛍光灯の光を反射させて不気味に光った。それが目についてしまった七篠はさっと青ざめる。

「あの、そっ、それは……イタズラという次元で済まされるものじゃ……」

「おとなしくしててくださいね? 七篠さんにお注射できるだなんて、夢みたいですぅぅぅぅ!」

「夢のままで終わらせておこうよー! やめ、やめてぇ!」

 この世の終わりの様な悲鳴を聞きつけて、仮装した女子たちがわらわらとここに駆けつけるまで、彼女はハロウィンのイタズラを軽視したことをひどく後悔するのだった。



●終わり。

clap thanks!!

@2013/10/05



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