夢小説 | ナノ


トリックしかないよ!@左右田夢


 女子が男子に隠れてこっそりハロウィンの計画を立てていると聞いて、浮かれた表情を隠しきれるほど左右田和一という男は聡明ではなかった。にやついた顔でコテージにてその時を待つ。
 日向から得た情報によれば、夜遅くに男子のコテージ一つ一つを仮装した女子が回って歩くらしい。そしてハロウィンの決まり文句で驚かせるというのだ。誰がどこに当たるかはくじ引きで決まるためそこまでの情報を得ることはできなかったが、そこまで聞ければ十分に胸を躍らす理由になった。
 一体誰がくるのだろう。もちろんソニアが来れば大本命ではあるが、ここは罪木や終里などのイタズラを期待してしまうところだ。
 彼はここにお菓子を持ってきてはいなかった。当然、訪問したお化け女子たちに素直にお菓子を渡してしまえばそれだけで事は済む。だがそんなことはハロウィンの醍醐味ではない、イタズラされることこそが楽しいのだと、左右田は変な所に期待するのだった。
 早く誰か来ないだろうかと、さり気無くドアを開く予行練習を脳内で繰り広げている内に彼の目の前のドアがノックされた。遠慮がちなその音は寝ていることを考慮してだろうか。だとしたら終里や西園寺、澪田はない。一体誰だろうかとわくわくしながらそのドアを開いた。

「トリック・オア・トリックー! こんばんは、左右田くんっ」

「おおおう、こここんばんは! 七篠ちゃん! てかなに、トリックしかないのかよ!?」

「左右田くんはどうせお菓子持ってなさそうだったから言ってみました」

「あ……ああ、確かに持ってねーけど……」

 すっかり彼女の姿に視線を奪われてしまって、それどころではなかった。化け猫を表しているのだろう縞模様のネコミミのカチューシャと、しっぽ。それを着けつつビキニの様に露出が多い、胸と下半身の大事な所だけを隠した紺色の毛糸の衣装。どれも左右田の男心をくすぐるものばかりで、目のやり場に困るのだった。
 そんな彼の視線に気づいて頬を赤らめる彼女は、普段はそんな格好など絶対にしないような慎ましやかな女の子である。いつもは隠されていた柔肌が露出したその格好はなかなかに刺激的だ。

「左右田くんの変態……」

「え、いや、ち、違うって!」

「はい、そんな変態さんには変態的なイタズラをプレゼントです!」

 そう言って彼女がドアの陰に隠していた物を引っ張り出してきた。

「ぎゃあああああ!!! まさか、それオレが……」

「その通り、左右田くんに着てもらいまーす。エプロンドレス!」

 彼女が満面の笑みで手に持つそれは、黒と白を基調とした、フリルがあらゆるところにあしらわれている可愛らしいエプロンドレスだった。
 地獄を見たかのように悲鳴をあげてそれを拒否しコテージ内の奥に逃げようとする左右田に対して、彼女は楽しそうに詰め寄る。

「ぜってー着ねーからな!」

「無駄無駄っ! 抵抗したところで……」

「着ねーぞ! どんなに目の前に掲げてもダメだ、オレのプライドにかけてな!」

「むう、かくなる上はわたしが無理矢理」

 そこではたと何かに気づいて彼女は赤面した。エプロンドレスを持つ手が震えている。

「無理矢理、着せんのか?」

「いや、あの、そうなんですけど、はい」

 何やら彼女の様子がおかしい。言い淀んでもじもじとしている。エプロンドレスを手に強気な態度で攻めていた彼女はどこへやらだ。
 そこで左右田は気づいた。彼女がそれ以上言えないのはその純粋さ故なのだ、ということに。

「オレの服を脱がさなきゃ着せられねーよなぁ?」

「なっ……!」

 当然その過程がつくことになる。だが彼女にとっては羞恥以外の何ものでもない行為だ。となれば言葉にすることすら避けたいのも道理であった。
 左右田は彼女の腕を掴んだ。男の力に敵うはずもなく、その手からは逃げることはできない。

「んー、七篠ちゃんとなら、そういうのもアリってことで、特別に脱がさせてやるよ!」

「あはは、左右田くんへのイタズラは後日ってことで……」

「イタズラするまで帰さねーぜ? 猫ちゃんよォ?」

 コテージ内に足を踏み入れてしまったことに激しく後悔した。もはやこの状況ではどちらがそのイタズラをされる側なのかわからない。
 ハロウィンの長い夜は、どうやらこれからのようである。



●終わり。

clap thanks!!

@2013/10/04

(ちょこっと修正。2016/08/22)


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