夢小説 | ナノ


トリックオア…聞いて!@田中夢


 とんとん、とコテージの戸がノックされる。さらにはチャイム音まで鳴った。結界を破ろうというのだろうか、その音は無視を決め込んでも止むことはなくむしろその音を大きくしたりチャイムを連打したりと、迷惑極まりない行為にまで発展していった。
 こんな夜更けになんだというのだろう。田中は頭や肩に四天王を乗せて戯れていたのだが、遂に重い腰を上げて玄関へと向かった。
 もはやドアが壊れるのではないかというくらいにノックの音が強くなっている。例えどんな強敵、化け物や魔物の類が待ち受けていようともそれと戦う覚悟はできていた。それに気を休める大事なひと時を邪魔されたのだから、それなりの報いを与えねばという苛立ちもある。相変わらず止まないノック音を立てるドアの前に立ち、冷静を装ってドアを開けた。

「っわ、わわ!?」

 もう一度ノックをと振り上げたその人物の拳は空を切り、行き場のない力はその全身を巻き込む。ノックをしていた訪問者はなす術もなく、ドアを開けた田中の胸の中に激突することになった。

「うぎゅっ!?」

「ッ!? さ、触るなッ! 俺様の毒を食らえば決して無事では」

「た、たなかくーん……いたい……」

 そう言いながら田中の胸に埋めていた少女が顔を上げる。彼女が思い切り寄りかかっても倒れない彼は鍛え方が違うのであろう。思ったよりも筋肉質だった彼の胸は女の子の顔面に対して厳しい衝撃を与えていた。赤くなった顔面を隠すように顔を押さえている。
 深く帽子をかぶっていてわからなかったが、よくよく見ればその顔に見覚えがあった。彼女は少し前に彼から特異点と認められていた者である。

「……フン、七篠ではないか。悪鬼魔獣が姿を現しだす時間に俺様の領域に力ずくで入ろうなど、一体どういうつもりだ」

 この時間にこの姿で突然コテージへ押し掛けるとは一体どういう用件があるのだろう。訝しげな瞳で着ているものを見れば、田中の知りえるいつもの彼女のものとは違っていた。西洋の魔女を彷彿とさせる、この南国の島には不似合いな真っ黒で不気味な衣装を身に纏っているのである。しかもその少女に不釣り合いな、大きなトンガリ帽子までかぶっている。大きさが合わないのか常に脱げそうなそれに手を当てているようだ。

「トリック・オア・トリート! だよ、田中くん!」

 無邪気に笑う彼女の意図が田中には残念ながら伝わらなかったらしい。怪訝な顔をして謎の呪文を唱える彼女を見つめている。
 ここは南国の島ではあるが、暦で辿れば日本時間ではハロウィンの日らしい。ソニアや小泉たちと計画した女子のハロウィン計画だったのだが、田中は南国にいるということもありどうやらその行事に気づいていないようであった。

「と、とりっくおあとりーとぉぉぉ! お菓子くれないと悪戯しちゃうんだから!」

 あまりに田中が反応してくれないため、焦って叫ぶ。さすがに無反応、という予想はしていなかった。むしろ田中の様に暗黒儀式のようなものを好む者であれば知っていそうなものだが、そんな彼女の期待は大きく外れた。

「貴様、もしや七篠の皮を被った化け物か……!?」

 田中は悪戯しちゃうぞと言いながら襲いかかるポーズをとる彼女から距離をとり、戦闘態勢の構えをした。マフラーの陰からひょっこりと顔を出す四天王たちも警戒の意を示している。

「あ、あの……今日はハロウィンで……」

「いいだろう。無形の凶器と呼ばれしこの田中眼蛇夢、貴様の挑戦に受けて立とうではないかッ! フハハハハハッ!」

 高らかに笑う彼の様子はどうみてもハロウィンの意図を理解したとは思えない。
 確かに今の彼女の恰好はいつものものとは違うのだが、声も仕草も彼の知っているそれと同じもののはずだ。流石に本気で勘違いしているということはないのではないか、と油断したのが彼女の運の尽きだった。

「えっとね、お菓子をくれないと悪戯するっていう、そんなこと言って子供が家々をですね」

「問答無用!! まずはその傷つけることを躊躇う″偽りの顔″(ペルソナ)や″装備″(ジャンクション)を″剥離″(パージして)やろうッ!」

 田中は彼女に襲いかかる。弾みでかぶっていた帽子は脱げてしまい、床に押し倒されるような形になってしまった。床に打ちつけられた背中が痛く、彼女は苦痛に顔を歪めた。
 そんな彼女の頬を田中の手が突然引っ張った。ありもしない仮面を取ろうというのである。それがなかなかの弾力を持ち伸びることから剥ぎ取ることは難しいと思ったらしい。次に服を剥ぎ取ろうとする田中に対して彼女は必死に抵抗した。この黒衣の下にTシャツを着るなどの厚着はしていないため、脱がされたらそこにあるのは彼女のあられもない姿だ。だが所詮は女の子の力、屈強な肉体を持つ男の田中に敵うはずもなく、力の差は歴然であった。

「ああ、あのおおお! だめっ、田中くん、あの、服引っ張ったらだめです。ほんと、これ冗談とかじゃなくて」

「ぐッ……貴様、七篠の顔で、そんな目で俺様を見ても容赦などせんぞッ!」

「いたた、本物なんですー! 本物の七篠さんですー!」

 泣きじゃくって叫ぶ彼女の衣服は抵抗虚しく、田中によって肌着が見え隠れするほどまでに脱がされた。それを見てようやく本人である、と気づき赤面して後に引けなくなった田中を助けてくれたのは、彼女の叫び声を聞いて駆けつけてくれた日向だった。
 日向によって事は穏便に済んだのだが、しばらくの間、2人とも挨拶を交わす度に赤面して周囲に変な目で見られることになるのである。
 彼女はつねられて少し腫れた頬を擦りながら、来年こそ絶対にイタズラしてやるのだと悔しげな顔をしながら密かに誓うのだった。



●終わり。

clap thanks!!

@2013/10/04


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