外は寒いからおうちで遊ぼうということになったのだが、遊ぶどころか寒さで動けない二人は惰眠を貪っていた。
やがて小腹が空いて、××は台所へ向かい何かを作り始める。いい香りがしてきた頃、皿を持った彼女が声をかけてくれるのだった。
「はい、ゴン太くん。お餅焼けたよー」
こたつでぬくぬくしている獄原の目の前に、砂糖醤油が塗られた焼きたての餅が現れた。ぼんやりテレビを見ていた彼だったが、差し出されたものに釘つけになる。
「わあ、ありがとう! ゴン太、お餅食べるの初めてなんだ」
「そうなの? 喉に詰まらせたら危ないから、少しずつ食べるんだよ」
「うん、わかったよ! いただきますっ」
彼女の注意をしっかり聞いて、獄原は箸を持った。上手に小さくつまみ口に入れようとするが、白い物体は千切れることなく皿と箸の間で繋がってしまっている。
「うわあ、すごく伸びるんだね……えっと、どうしたらいいのかな……」
「ああ、ゴン太くん、そのまま食べるのは」
待って、と言った彼女の制止の声も聞かず、とりあえず、食べてしまった。何の考えもなくただ伸ばされた餅は宙に浮いて、獄原の口と皿との間で落ちずに揺れている。
「んーっ、むーっ!」
落としたら紳士じゃないと思い、獄原は懸命に箸で餅を支えようとするが、悲しいかな、重力には敵わなかった。獄原の服にべっとりと白い餅がついてしまった。
「あー……」
隣で声を漏らした彼女と獄原は目を合わせる。
そして彼は、しょんぼりとして視線を自分の胸元に落とすと、もっちもっちと口に含んだ分の餅をゆっくり食べた。
それから皿に残った餅を悔しそうに見て、言葉を発した。
「……ご、ごめんね。せっかく作ってくれたのに……。あ、でも、おいしいよ!」
「いいんだよ。今度はお皿の上で千切ってから食べてね。お餅が乾く前に洗わないと取れなくなるから、服脱いでくれる?」
「う、うん。でもゴン太、服ぐらい自分で洗えるよ!」
「ゴン太くんはわたしの分のお餅も食べておいて。落とした分ちゃんと食べないと、夢におもちお化けが出てくるんだから」
「ええっ!? それは困るよ! ゴン太、お化けは苦手なんだ!」
いいから早く服を、という彼女に、獄原は急いで脱いだ服を渡した。半裸にちゃんちゃんこ一枚の彼はどう見ても寒そうだが、本人は寒がりもせず、今度こそはと餅にありついていた。
服を洗い終えた××が帰ってくると、お腹いっぱいになった獄原がこたつのテーブルの上に顔を乗せて眠っていた。餅が乗っていた皿は綺麗に食べ尽くされている。よほどおもちお化けが怖かったのだろうか。
幸せそうな彼の寝顔を見て、彼女はそっと毛布をかけてやるのだった。
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