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夜――。皆が寝静まり、辺りはしん、としていた。
そんな中葵は天へ帰るために、江戸の私室へと向かっていた。 丁度江戸は、
上司(将軍)との会談がある、と嫌そうに零していたから今の時間、あの部屋に人は居ないはずだ。

「………来てしまった。」

いざ入るとなると、葵を罪悪感が
襲ってきた。何も言わずに江戸の元から去ろうとしているのだから。

ま、いっか。

罪悪感を無理矢理払いのけ、襖に手をかけた。
其処には誰も居なかった。 整理整頓された文机の上。床板に飾られてある一輪の桔梗。葵が江戸に、と山まで赴き摘んで
きたものだ。数刻前に来た時とは何ら変わっていなかった。

ただ、江戸が居ないだけで。

冷たい空気が葵にそれを思い知らせる。

「あった……羽衣」

違い棚の上に小箱の中に丁寧に折りたたまれたそれを取り出し、優しく撫でる。 江戸との出会いから今までの出来事が走馬灯の様に頭の中を駆け巡った。

そして、それを羽織りいつもの感覚で
葵は浮き上がった。

「また……お会いしましょうね。江戸さん」

誰にも聞こえぬ様にポツリ、と葵が呟いた事など、会談をしていた江戸は知る由も無かった。


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