寿嶺二
2月14日8時42分。私は何故か嶺二さんに後ろから抱きしめられている。

「えへへー、なまえちゃん、あったかぁい」

幸せそうな顔で笑っている嶺二さん。すごく頬が緩んでいる。アイドルがそんなんで大丈夫なんですかね。
事の発端は、確か7時頃のこと。仕事も一区切りついて、そろそろ夕飯にしようと思ったら、「ねえねえ、今からなまえちゃんちに行っても大丈夫?ぼく、今日はなまえちゃんと一緒に夕飯を食べたいんだ☆」という電話が嶺二さんからかかってきて、了承したら10分弱で嶺二さんが私の家に来た。二人で一緒に夕飯を作って、食べて、一息ついたところで一緒にテレビみようということになり、ソファに移動したら――何故か、嶺二さんに後ろから抱きしめられるような形で見ていたのだ。
どうしてこうなったんだろう。そう思うけれど、やっぱり好きな人に抱きしめられるというのは嬉しくて。嶺二さんのぬくもりに包まれていると考えると少しにやけそうになる。頑張って耐えてるけど。

「ねー、なまえちゃん」

「なんですか?」

「今日バレンタインだけどさー」

ぎくり。身体が嫌でも反応してしまう、確かに、今日はバレンタインデーだ。私の恋人である嶺二さんが、自分宛てにチョコがあるのかないのか、気にするの行為は理解できる。だけど、今の私にとって、この話は禁句だった。

「ランランやアイアイは貰ったって聞いたんだけど……ぼくにはないのかなぁ〜、なーんて……」

ぎくぎく。きっと今の私の顔は真っ青になっているだろう。確かに私は日頃お世話になっている蘭丸さんや藍さん、カミュさん、その他もろもろには(もちろん義理だけれど)チョコをあげた。これはまぎれもない事実である。しかし…どうしても、嶺二さんにはあげられない事情があるのだ。

「もしかしてぼくにはあげたくなかった…とか?」

「っ! そんなことは絶対にありえないです!」

あ。やってしまった。突然叫んだものだから、嶺二さんは自身のチャームポイントであるタレ目をぱちくりとさせている。

「ええっと……それじゃ、ぼくへのチョコって、あるの?」

首をこてんと傾げて訊ねる嶺二先輩。その顔はまるでお預けをされている犬みたいだ。そんな表情をされたら、本当のことを話さなくちゃいけないじゃないか。私は恥を忍んで、嶺二さんに告げた。

「………しっぱい、しちゃったんです」

「え、」

「その……蘭丸さんたちへのはお店で購入したものなんですけど………、嶺二さんには、手作りをあげようと、思って…………でも……」

上手くいかず、失敗してしまって。

恥ずかしくて、俯きながらぼそぼそと言う。本当は言いたくなかったけれど、嘘をつくよりはずっとマシだ。ああ、呆れられちゃったかな。チョコもろくに作れない女なんて、嶺二さんも嫌だよね。そう思っていたら、嶺二さんはぎゅう、と抱きしめる力を少し強くした。

「そっかそっか。ぼくの為に作ろうとしてくれたんだね。……それだけでもすごくうれしいよ、ありがとう」

「嶺二、さ……」

耳元で囁かれて、無性に恥ずかしくなる。でも、嶺二さんの言葉がすっと心の中に入ってきて、とても暖かくなった。

世界は私に甘いらしい

(嶺二さん)
(んー?)
(今度、お料理教えてください)
(! まかせてちょっ!)
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