来栖翔
まずい。これは非常にまずい。
現在、2月14日16時28分。明日の朝締め切りの仕事は、残り4つ。詰んだ。
ただでさえ、翔ちゃんへのチョコ作ってないのに、これはやばい。とりあえず全力で仕事を終わらせるしかない。そしてチョコを作らなくては。私はドラマのBGMの仕事から、作業をはじめた。


「これで…よしっと! ふー…、やっと終わった……」

全ての仕事を仕上げ、達成感に満たされる。けど、そんな場合じゃない!バッと時計を見ると、現時刻、20時53分。うわ、多分、今からじゃ絶対間に合わない。どうしよう。いや、でも、手作りじゃなくても、どっかで買ってくれば…!と思ったら、ピンポーンとチャイムが鳴った。

「なまえー、いるかー?」

や ば い 。
あの声は確実に翔ちゃん。どうしよう、どうしよう! よし、翔ちゃんには悪いけれど、居留守を使おう。ごめんね翔ちゃん。と思っていたら、何故かガチャガチャリと鍵を開ける音がした。そ、そうだ!私、翔ちゃんと合鍵交換したんだった……! 此方へ歩いてくる足音が近づく。

「あれ、なまえ、いんじゃん」

「や、やあ翔ちゃん」

「何で居留守使ったんだよー」

「あははー、ごめん、ちょっと意識飛んでた」

おいおい、と苦笑いする翔ちゃん。どくんどくん、と心臓がうるさい。翔ちゃん、お願いだからバレンタインの話は振らないでね!

「そーいやさ、今日ってバレンタインだよな」

はい、私終了のお知らせです。恋人なのにチョコ用意してないとか、絶対幻滅される。うふふ、さよならみなさん。

「つーわけで、ほい」

「へ?」

「だから、チョコだよ。やる」

え。
突然のことでちょっと頭がついていかない。翔ちゃんが私の前に差し出しているのは、綺麗にラッピングされたチョコレート。

「あの、バレンタインって、女の子が男の子にチョコあげる日じゃ……」

「海外じゃ、親しい人にチョコあげる日なんだとよ。男女は関係ないらしい。最近逆チョコとか流行ってるしな。それに…お前、最近忙しそうだったから」

だから、今年は俺があげる側なの。
そう言って笑う翔ちゃんから、素直にチョコを受け取ると、独特な甘い香りが鼻をくすぐった。どうしよう、とてつもなく嬉しい。幸せすぎて、顔がにやけてしまいそうだ。

「翔ちゃん、ありがとう」

にへら、と笑うと、「ホワイトデー、期待してるかんな」と翔ちゃんは悪戯っぽく笑った。
ホワイトデーこそ、ちゃんとしたものを贈ろう。そして、改めて私の気持ちを伝えたいな。愛してる、って。

砂糖菓子より甘い、

(君が大好き)
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