宮地清志
「先輩、」

「あ?」

「寒い、ですね」

「まあ、冬だからな」

何気ない帰り道。先輩は、いつも通り私の隣で帰路を歩いている。部活を引退してからは、毎日一緒に帰っている。嬉しい、けど、少し寂しい。もうすぐ卒業してしまう、と実感してしまうから。

「宮地先輩、」

「んー?」

「今日何の日か、知ってますか?」

「チョコレート会社の策略の日だろ」

「………バレンタインって言ってください」

どうでもいいかのように言う宮地先輩に少しいらっとした。先輩、私と付き合ってる自覚あるんですか。付き合ってても私のことは後輩か妹扱いですか。そうですか。

「そーいやさぁ、」

「なんですか、先輩?」

「お前、高尾とか緑間にはチョコやってたけど、俺にはねぇの?」

そう言って私の顔を覗き込む先輩。急に顔が近付いたからか、心臓がドキンと跳ね上がる。

「……一応、ありますけど」

「じゃあそれ寄こせ」

「それ貰う側の台詞ですか」

はあ、と溜息をつきながら私は鞄の中を漁る。淡いピンクのラッピングに包まれた箱を見つけると、はい、と宮地先輩に渡した。

「手作りか?」

「まあ、」

「ふーん」

にやにやと、少し嬉しそうに笑いながらラッピングされた箱を見つめる宮地先輩を見て、少し恥ずかしくなった。だけどやっぱり嬉しくて、思わず笑みがこぼれると、「何笑ってんだよ、轢くぞ」と先輩にわしゃわしゃと頭を撫でられた。

「ちょ、宮地せんぱ、頭ぐちゃぐちゃになる!」

「元々ぐちゃぐちゃだろーが、バーカ」

ひどい!と叫ぶと、宮地先輩はまた笑った。「…宮地先輩のばか」と小さく呟くと「聞こえてんぞ、刺されてぇのか?」と言った。先輩、笑顔なのが余計怖いです。

「ま、とりあえずさんきゅーな」

「とりあえずってなん」

ですか、と言おうとしたら、何故か言えなかった。気付くと、私と宮地先輩の距離がゼロと化していた。そっと熱が離れて、宮地先輩を見ると、「してやったり」とでも言いたそうな顔をしていた。

「急にちゅーしないでくださいよ、ばか」

「ちゅーって……ガキかお前は」

笑う先輩、頬をふくらます私。なんでもないこんな時間が、いつまでも続けばいいのに。

甘い時間よ、過ぎ去らないで

((まだ、先輩と一緒にいたいから))
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