高尾和成
「はー、さむ」

「だなー」

手をさすりながら呟くと、隣で歩いている高尾が返事をくれる。何気ないけど、幸せな時間。
今日は久しぶりに二人きりで帰っている。いつもは、高尾がチャリを漕いで、私と緑間がリアカーに乗るという、ものすごく高尾が可哀そうな状況。でも今日は、緑間が気を利かせてくれたのか、さっさと家に帰ってしまった。まあ、今日は特別な日だしね。

「なまえーチョコー」

「ごめん、家に忘れた」

「ええええ」

今持ってないことを知ると、高尾は肩を落とした。そんなにショックだった?

「明日渡すから、ね?」

「今日貰うことに意味があるんだろ? わかってねーなー」

ぶー、と唇を尖がらせる高尾。そんなにバレンタインにこだわるの?まあ、たしかに高尾はそーゆーイベント好きそうだけど。

「あ、そーだ、俺いいものもってんだよね〜」

「え、なにそれ嫌な予感しかしないんだけど」

鼻唄を歌いながら鞄を漁る高尾に、悪寒を感じながらこっそりと距離をとる。「あった!」と嬉しそうに出したのは――……リップ?

「はい、これ唇に塗って」

「え、あ、うん」

言われるままにリップ(?)を受けとり、中身を出してみると――何故か茶色。そしてこの甘ったるい匂い。まさかとは思うけど……これ、チョコレート?

「ほら、早く早く〜」

囃し立てる高尾を横目にゆっくりと唇に恐らくチョコレートのリップを塗る。甘い味がしたから、やっぱりチョコレートだと思う。なんでこんなものを、私に塗らせたんだろ?

「はい、できたよ」

「おっけー。じゃ、失礼すんねー」

「え………ちょ、」

有無を言わさずに高尾は私の唇にかぶりついた。ちゅ、ちゅ、とチョコをなめとるようにキスをしてくる。あまりにも急で頭がついていかない。なんだかもう、全てがとろけそうになった瞬間、唇がやっと離れた。

「ん、ごちそーさん」

「た、かお……!なにすんのよ!」

「なにって……んー…、ちゅこ?」

「なにそれ……!」

いたずらっぽく笑う高尾。私の唇にあったはずのチョコレートはご丁寧に全て高尾の胃の中だ。

「だってー、漫画でこーゆーのあったからさー…試したくなっちゃって☆」

「ばか! もうチョコあげない!」

「え、ちょ、そりゃひどくねぇ!?」

高尾をおいて早歩きした私の顔は、きっとトマトと同じくらい真っ赤なんだろう。


スイート・ラブ・ワールド

(ちょ、待てってば、なまえー!)
(い・や・だ!)





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ちゅこネタは「あ/っ/ち/こ/っ/ち」からです。

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