「は?海外出張?お父さんが?」 「そうなのよ〜、今度の春からね」 片手で頬を押さえながら困ったような表情をするお母さん。いや、この人絶対困ってないでしょ。海外出張楽しみなんだろ。恐らくお土産関連で。 「それでね〜、お父さんが私についてきてほしいっていったのよ」 「はぁっ!?」 まさか夫婦で仲良く海外旅行フラグ!? ていうか語尾にハートつけないでください。いい年こいてなにしてんの。 「というわけで、春からイトコのゆきちゃんちに泊ってもらうけどいいわよね?」 「えー…うん、いいよ」 私は渋々了承する。まあ、私もついてく!と言ってもよかったが、ぶっちゃけ日本語以外でずーっと過ごすのは嫌だ。というよりめんどくさい。 「よかったわぁ。嫌って言われたらどうしようと思ってたんだもの」 「言わないよ、そんなこと。あーでも、高校選ぶのめんどくさそう」 中三である私はもうすぐ高校受験がある。ここから高校見学をわざわざイトコのいる地域――神奈川までいくのは、めんどくさい。 「あぁ、それだったらゆきちゃんと同じ高校に行けばいいじゃない」 え、と私が呟いた瞬間にお母さんはどこからか「海常高校」のパンフレットを取り出した。つか、まじでどっからだしたの。四次元ポケットでもあるの? 「結構綺麗な校舎らしいわよ〜。偏差値もそこそこで、大学進学率も高いし」 「ふーん………」 ぺらり、とパンフレットを捲ると色々な紹介が載っていた。(まあ当たり前だろうけど。パンフレットだし) お母さんの言うとおり、校舎は綺麗で、大学進学率も高いようだ。 まあ、他のところ見に行くのもめんどくさいし、ここでいっかと安易な理由で私は進学先を海常高校へと決めた。 後に後悔するなど、知らずに。 (小さな小さな、足音が近づく) その場の雰囲気に流されて |