彼女の小さな手に、少しだけ触れたことがある。
小さくて、力を入れたら折れてしまいそうな、儚げで、危うい。
女の子のては、こんなにも細く脆かったのか。
彼女の手を握って、初めて気付いた。

「嶺二は、優しい人だね」

昔、彼女にそう言われたことがある。
困っている人がいたら、手を差し伸べてあげる優しさ、私はすごいと思う。
屈託のない笑顔で言われて、胸が苦しくなったのを、今でも鮮明に覚えていた。
もう、学生時代の話になる。なのに、こんなにもはっきりと、覚えているなんて。

「…そんなこと、ない…よん」
「動揺するほどのこと、かな」
「だって、いきなり過ぎるから嶺ちゃん吃驚しちゃった」
「あはは」

笑った彼女の笑顔を、僕はきっと一生忘れることができないだろう。
あの、きれいな笑みを。夕日に照らされて、すごく幻想的に見えた彼女を。

僕は、あの時から彼女のことが好きだった。

そんな、昔の思い出に浸りながら、こんなことを思い出すきっかけとなった手紙に再び目を移した。
差出人は、例の彼女。

「…幸せそうに、笑っちゃってさ」

一緒に入っていた写真に写る彼女を見て、泣きたくなる。
幸せそうに笑った、僕の好きな彼女の表情。
できることならば、その笑顔は僕に向けてほしかった。

「君は、知ってたかな。僕が」

君のことを、ずっと好いていたこと。
いや、知らない、かもしれない。

「なまえちゃん、鈍感さんだったからねー」

この気持ちを彼女に告げれば、きっと驚かれるだろうな。
悩ませてしまうかもしれない。泣かせてしまうかもしれない。

「ああ、それは嫌だな」

僕、彼女の涙には弱いオトコノコだから。
だから、この想いは一生誰にも告げずに、心の中に大事にしまっておこう。
君を幸せにするのが、僕でないことは悲しい。でも、なまえちゃんが笑ってくれるなら。
僕は、笑顔で君を祝福しよう。

友達として、最高の祝福を君にしてあげよう。


















(おめでとう、幸せになってね)
(そう言ってあげると、白いドレスに身を包んだ彼女は嬉しそうに笑った)
(「ありがとう、嶺二」って、大好きな笑顔を見せてくれた)

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