遠くで目覚ましの音がする。
少し肌寒いのを我慢して腕を伸ばしてピリリリと響く騒音を止めた。
ベッドから出なければ仕事に間に合わない。
掛布を捲って起き上がろうとすると腕を引かれて柔らかなベッドの上に逆戻りする羽目になった。
腕を引っ張る人間はこの場には1人しかいない。
せっかく彼を起こさないように静かに起きようとしたのに失敗だった。



「…嶺二、仕事遅れるから」

「んー…もう少しだけ、お願い」



私のお腹の辺りに腕を回して、嶺二はぎゅっと私を抱き寄せた。
男と女じゃ力の差は明らかで私がいくらほどこうとしても嶺二の腕はびくともしなかった。
諦めて大人しくする。
たぶんあと十分は微睡みに興じてもいいはずだ。
嶺二が来た日は余裕が出来るように目覚ましをセットしている。
今度からもっと静かな目覚ましで起きよう。
やれやれと目を瞑ると嶺二の額が私の頭のてっぺんにこつんとついて小さい笑い声が聞こえてきた。
少しくすぐったくて身を捩る。



「ありがとう、なまえ」

「なにが?」

「すごく幸せだから」



寝起きのくせにしっかりした声で嶺二が言う。
ありがとうだとか幸せだとか嶺二はわりとしっかり伝えてくれるタイプの人だから珍しくはなかったけれど、嬉しい。
言葉の意味をゆっくり紐解くと私も幸せな気持ちになった。
自然と顔が緩み出すのを感じて平静を保とうとしたけれどなかなか難しく、いま私は酷いにやけ顔をしているはずだ。
嶺二が背中から抱きついてくれてるのがせめてもの幸い。
これなら顔は見られないからいい。



「どうしよ、ちょっと困っちゃったなあ」

「え?」

「ぼく、いまかなりニヤニヤしてると思う。なまえに引かれちゃうかも」

「…私もだから引かない!」



思い切り振り返ると確かに少しにやけた嶺二と目があった。
ああ、私もこんな顔してるのかな。
…それよりも予想以上に顔が近くてビックリした。
たぶんそれが顔に出てしまったんだろう、嶺二が目を細めて微笑む。
私の額にそっと口づけて、おはよ、と囁いた彼に私も挨拶を返して二人揃って笑いあった。






ぼくを見つけてくれてありがとう
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