屋上のフェンスに身を乗り出た嶺二くんが少し振り返って、なんでもなさそうに言った。

「僕たち、アイドルになるんだよ」

卒業オーディションを終えて、わたしと嶺二くんはそこそこの成績を残して見事事務所入り。優勝こそはできなかったけれど、学園で学んだことを発揮できたから悔いはない。むしろ心は晴れ晴れとしていて、清々しいくらい。

「うん。すごく、楽しみだね」

なのに、なんで。ぽろぽろと零れてくる涙は止まらない。嬉しいはずなのに。すると静かな足音が近づいてきて、嶺二くんの胸に顔を押しつけられた。そんな事したら、嶺二くんの制服が汚しちゃう。離れようと身を捩っても、嶺二くんの力のこもった腕がそうはさせてくれなかった。
わたしの頭が嶺二くんの胸にあるってことは、嶺二くん、また背が伸びたんだなあ。嶺二くんは器用で、すぐになんでもできてしまった。だからわたしはいつだって追いつくことに必死で。わたしの向かう先には嶺二くんが待っていてくれている。そう思ったら辛いことも自然に頑張れていた。

「一年間、楽しかったよね」
「うん」

楽しかった。好きな勉強ができて、大好きな人と一緒に夢に向かって全力疾走で。本当に本当に楽しかった。戻りたい、なんて矛盾かな。だけどもうすぐこの学園には次の世代の子達がたくさん入ってくる。いっぱい勉強して、歌って、もしかしたら私たちみたいに、内緒で恋もしてしまうかもしれない。

「ほうら!泣かないの」

嶺二くんは少しだけ体を離して、指で優しく涙を拭ってくれた。泣かないの、なんて言ってるけど、嶺二くんだってそうじゃない。どちらからともなく絡め合わせた指先は温かくて、心をくすぐる。私たちはへたくそな笑顔で笑いあった。
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