▼優しさは知ってるよ
今日は気分転換に学校の裏にある森で作曲しようと思い、私は森への道を歩いていた。森で作曲するのは楽しい。いろんな自然の音に囲まれていると色々なメロディが頭の中に浮かんでくる。
「あ、またメロディが浮かんできた!」
私は急いで五線譜の描かれたメモ帳を取り出すと、歩きながらメモをした。メモしないと、すぐに忘れちゃうからね。
その時、私はよそ見をしていたせいで前方に近付いてくる人影に気付かず――
ドン、
「う、わわっ」
「っ、」
ぶつかってしまい、私は派手に転んでしまった。いたるところが何だか痛い。とりあえずぶつかった人に謝ろうと思い、ぶつかった相手を見上げると、ミルクティー色の髪。
「すいません、……て、なっちゃん?」
「……………」
そこには、私のパートナーのなっちゃんが居た。けど、睨まれた。え、なんで。よく見てみるといつもしているメガネがない。ということは、
「え…と、砂月、くん?」
「………ちっ」
小さく舌打ちするなっちゃん改め砂月くん。やっぱり砂月くんだったんだ。にしても、なんでメガネ外してるんだろ。なんかで外れちゃったのかな。
「おい、お前」
「え、あ、邪魔、だよね」
すぐにどこうと思ったら、上から「ちげぇよ」という声が。え、違うって何が。と思っていたら手を思いっきり引っ張られて立ちあがらせ、私を何処かへと引っ張っていく。
「わ、ちょ、砂月、くん?」
「………いいからこい」
手首を強く握られてるから地味に痛い。というか、どこへ向かっているんだろう?
大人しくついていくと、森の広間のような場所に出てきた。そこにはベンチがあり、私はどすりと座らされた。
「…………ちょっと待ってろ」
「え、あ、」
何か言う前に砂月くんが去っていく。待ってろ、と言われたしとりあえず待ってみる。右膝がなんだがズキズキと痛むな、と思って目を向けると擦りむいていて、血が出ていた。だから痛かったんだ、なんて一人で納得していると砂月くんがペットボトルを持ちながら帰ってきた、と思ったらペットボトル(ミネラルウォーターっぽい)の蓋を開けたかと思ったらびちゃびちゃ、と私の右膝にかけ始めた。
「っ、」
水が傷口にしみて、顔がわずかに歪む。でも気にせずミネラルウォーターをかけ続け、片手でポケットからティッシュを出し、時々傷口を拭いていた。
「あ、の、砂月、く、」
「…………なんだ」
「あの、治療してくれて、ありが、とう」
躓きながらも言いきると、砂月くんはそっぽを向きながら「別にお前を心配してんじゃねえ。お前が傷つくとアイツも傷つくからだ」と言い放った。
ぶっきらぼうで、無愛想で。なっちゃんとは真逆だけれど。
なっちゃんも砂月くんも、二人とも優しいってことは知ってるよ。
優しさは知ってるよ
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