▼俺がそこに居たなら
「ごめん、ごめんね、那月くん……」


彼女がそう言った瞬間、那月の何かが崩れ落ち――
俺が、生まれた。



「なっちゃん!」

「あ、なまえちゃん」

少女が那月の名前を呼ぶとコイツはふにゃりとしたゆるみきった笑顔を向ける。少女――みょーじなまえは、コイツのパートナーと呼ばれる存在らしい。パートナーと言っても学園内のアイドルと作曲家のペアというだけ。なのに、なのに彼はまた相変わらず、彼女を信じているらしい。いつ、裏切られるかもわからないのに。

「あのね、また新しい曲のラフが書けたの!なっちゃんのこと考えると、いーっぱい曲が思いつくんだ」

「それはすごいですねえ。僕となまえちゃんの相性がいいんですよ、きっと!」

二人はにこにこと笑顔を絶やさずに会話する。周りから見たらきっと、微笑ましい光景だろう。でも、俺の心の中には、どす黒い感情だけが残る。


なんでだ、那月。お前は、一度裏切られた身だろ?
なのに、なんでお前は、また信じようとする。

どうせ、傷つくだけなのに。

俺は、お前が傷つく姿なんて、見たくねぇんだよ。


俺がそこに居たなら

((絶対にお前を傷つけさせないのに))

(誰にも聞こえないと分かっているのに、)
(俺は小さく呟いた)



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