▼チーズケーキ
からんからん、という入店の合図の音が鳴り、反射的に店員は入り口の方へ顔を向け、「いらっしゃいませ」と言葉を放つ。バイトである私もそれは変わらず、テーブルを台拭きで拭きながら「いらっしゃいませ」と言い、はたと気付いた。彼だ。

来客したのは肌が真っ白な外人の方。かけている黒ぶち眼鏡の向こう側に蒼い瞳が覗いている。外人、といっても日本語はペラペラで日本に住んでるのは長いのだろう。彼は、最近よくうちの店にくるお客様で、私が気になっている人だ。気になる、とは言っても恋愛感情というわけではなく、彼は甘いものが好きなようなので、甘党な私と気が合いそうだなぁ。とか思ったりするだけである。

「チーズケーキと、ホットコーヒーひとつ」

「かしこまりました。600円となります」

彼が颯爽と会計を済ませ、私が先ほど拭き終えた席に座った。コーヒーにコーヒーフレッシュを入れると、スティックシュガーを10本ほど入れてかき混ぜる。相変わらずすごい量だな……。私でもあそこまで入れないぞ。せいぜい5本。と思ったところでぱこん、という音と共に後頭部がズキズキと痛む。

「こーら、なまえちゃん何さぼってるの!」

「う……せんぱい、」

「全く……。そんなさぼってるなまえちゃんにはコレをプレゼント〜ぱちぱち」

どさぁっ、と渡された紙束を見てさーっと顔を青くする。まさか、と思い一枚一枚めくってみると全てこのカフェのチラシ。

「これ、30分以内に全部配ってきてね」

「え、えぇ!?この量をですか?!」

うん、と満面の笑みで答える先輩。これはひどい。分かったらさっさと行って来い!という風に外を指さす先輩を見て溜息をつきながら外へ出た。

ふと店内の方を振り向くと、『彼』と目があった気がした。


なめらかチーズケーキ

(せ、先輩…配り終えました……)
(うむ、ごくろう!)



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