▼どうして同じなのに出来ないんだろう
サッカーボールが俺――というより、那月の後頭部にあたり、メガネが外れて出てきた俺は、サッカーボールを当てた糞チビを絞めた後、なんとなくこのまま出歩いてみることにした。廊下を歩いているとメガネをはずしていることに気付く生徒は大体避けて通るが、むしろうっとおしくて殴りたくなる。が、一応我慢はしている。
「う―――ん………、だっめだなぁ………」
Aクラスの横を通り過ぎようとしたら、そんな悩んだような声が聞こえる。この声は、アイツだ。扉を開けて中を見ると此方を驚いたような表情で見てくるアイツ。やっぱり、か。
「う、わ!なっちゃん……?って、アレ、またメガネないから……砂月くん?」
「…なにしてんだ」
「えっと、林檎ちゃんに出された課題を出したんだけどね……」
ダメだしされちゃって、やり直しになっちゃったの。と困ったように笑うなまえ。気付いてないだろうけど、なんだか泣きそうな表情をしている。なまえが持っている楽譜を見ると、ところどころ先生からの添削が記されていた。
「大丈夫です、なまえちゃん。どう直せばいいのか、一緒に考えましょう!」
きっと、那月ならこんなことを言うだろう。俺は那月で、那月は俺だ。それくらい予想はつく。だが、俺にそんな器用なことはできねぇ。
俺は無言でシャーペンを手に取るとさらさらと何か所か訂正していく。
「ここはこうして、こうした方がいいんじゃねぇの?」
「あ、そっか!」
なまえは閃いたみたいで、俺に続いてシャーペンで書きこんでいく。
「砂月くん、ありがとう!!」
課題を完成させたなまえは早速月宮先生へと再提出に行った。
はぁ、と溜息をつく。なんでこんならしくねぇことしちまったんだ。一人で床に座り込み、頭を押さえる。
なんで、アイツなら、もっと器用なことできるのに、俺はできねえんだ。
クソッ、胸糞わりぃ。
なんで、こんなに、もやもやすんだよ。
どうして同じなのに出来ないんだろう
back