07
ただいま、と小さく呟きながら私は寮の部屋に入った。中にはもちろん、誰もいない。
私が早乙女学園に入って数週間がたった。やはり、学校と仕事の両立というのは難しく、しばらくは忙しい毎日を繰り返してきたが、少しずつその忙しさにも慣れてきた。今日も、Mariとしての仕事を終わらせて帰ってきたところだ。
相変わらずMariを演じるのは疲れる。ぼすり、とベッドに倒れ、身体の力を抜いた。
明後日提出の課題は、確か作詞。明日の仕事は結構詰まってるから、今日中にやってしまいたいなあ、と考えていたら。
Pipipi...
着信音がカバンのある位置から流れ出す。疲れているときに誰だ、と思いながらスマホを漁ってディスプレイを見る。相手は嶺二だった。
『あ、もしもしなまえちゃーん?』
「嶺二、何か用?」
『いやあ、別にないけれど』
「なら電話してくんなアホ嶺二。こっちは疲れてんのよ」
ひどいっ!と嘆く声がスピーカー越しに聞こえてくる。相変わらずうざい。
嶺二は、数少ないMariの本性(というか、みょうじなまえのこと)を知っている人間だ。もちろん、私が早乙女学園に通っていることも知っている。(ちなみに他には、蘭丸、藍、カミュ、林檎さん、龍也さんなどの人たちが知っている)
『いやあ、なまえちゃんがお疲れ気味だから、れいちゃんが励ましのコールをしてあげようかと思ってね!』
「うわあそんないらないお気遣いありがとうおかげで余計疲れたよ」
『一息で言い切った!?』
しかもコメントがひどいよ!とぴーぴーうるさくなる嶺二。真面目に余計な疲れが出てくるんだけど。電話切ってやろうか。と、思ったけど、自重しておく。一応先輩だし。一応。
「で、それだけ? 電話切ってもいい? 課題やっちゃいたいから」
『え、ちょ、ちょぉーっと待って! まだ大事なこと伝えてない!』
「最初からその大事なことってやつだけ伝えてもらいたかったんだけど」
『あのね、本当に疲れたら、誰かを頼ってほしいんだ』
「は、」
『どんな些細なことでもいい。頼る相手も、誰でもいい。ぼくだって、龍也先輩だって、ランランとかでもいい。なまえちゃんはいっつも無理しちゃうから』
「……」
『それだけが言いたかったんだ。なまえちゃんの周りにはたくさんの人がいるんだから、もっと頼っていいんだよ?』
「……でも、嶺二ってなんか頼りないよね」
『え"っ、ひどい!』
「………………うそ。ありがと、嶺二」
『え、』
今、なんて、という嶺二の声を無視して、おやすみと伝えて電話を切る。ああ、柄にもないことを言ってしまったな。でも、ホンネだし。、いいよね。
私はベッドから起き上がると、課題を進めるために机に向かい、シャーペンを握った。