05
龍也さんに呼ばれたので、教室に入るとやはりまたザワリと教室がざわめいた。あぁ、またMariと勘違いしてるのかな。いや、確かに私はMariだけど……ここではみょうじなまえだし。
「みょうじなまえ、アイドルコースです。よろしくおねがいします」
テンプレートな自己紹介をしてぺこりと頭を下げる。そして、顔をあげてから一言追記する。
「先に言っておきますが、私はMariではありませんので」
しん、と教室が静まり返った。私は龍也さんに自分の席を聞くと、そのままツカツカと席へ向かい座った。
そのまま龍也さんは連絡事項を少し伝え、HRを終えた。
HRが終わったものの、授業まで時間があり、暇なので本を読み始める。すると隣の席のちっこい男の子が話しかけてきた。
「なあ、俺、来栖翔ってんだ!よろしくな」
「……よろしく」
短く伝えるとおう!とニカ、と笑った。笑顔が爽やかな子だ。にしても………帽子を被っている、と思っても。
「…………ちっちゃいな」
「んだと!?」
あ、しまった、口に出てた。来栖くんは怒りの表情を浮かべている。やっぱり小さいというのはコンプレックスなのだろうか。小さいなら小さいで絶対かわいい系のキャラで売れると思うのに。
「全く、おチビちゃんはそんなにレディに怒りをぶつけるなんて……男としてどうなんだい?」
キツくない程度の香水が香る。上を見上げると肩くらいのオレンジの髪の青年。チビって言うな!、という来栖くんの怒った声を無視して彼は私の髪の毛をふわりと持ち上げ、キスをした。
「俺は神宮寺レン。よろしくね、レディ?」
「よ、よろしく……」
ぞわー……と嫌でも鳥肌が立つのが分かった。うわぁ、なんだコイツ。フェニミスト……というやつだろうか。
「おーい、トキヤも来いよ!」
「そうだよ。イッチーとレディは似た者同士だし、気が合うんじゃない?」
来栖くんと神宮寺くんの視線を追うと、そこには、HAYATOがいた。やっぱりHAYATOもキャラだったのかな。彼はいつものふにゃあとした緩みきった顔ではなく、クールな雰囲気を漂わせていた。
「似た者同士、というのは置いといて……、一応同じクラスですし自己紹介しておきます。一ノ瀬トキヤです。言っておきますが、HAYATOではありませんから」
「よろしく。一ノ瀬くんも苦労してるね」
まあ、この苦労してるね、は「毎日キャラを演じて」ということだけど。
そんなこんなで私の早乙女学園での生活ははじまった。