ひらり、ひらり。桜が舞う。
まだ満開とは言えないが、少しだけ咲いている桜たちは、まるで私たちを祝福しているようだった。
「……なまえ」
透き通った声が後ろから聞こえたので、くるりと振り返ると、藍色の彼がいた。
「卒業おめでとう」
「……あのねえ、藍くん。祝ってくれるのは嬉しいけど、私はまだあなたの先輩だよ? “先輩”を付けなさい」
「……なまえ、センパイ」
すごく不服そうに言う藍くん。相変わらず生意気だけれど、そこがまた愛おしい。
「あーあ、もう卒業かあ。なんか早かったなあ」
「……なに、おばさんみたいなこと言わないでくれる?」
「うわっ、ひど! それが彼女に対する言葉〜?」
「別に、本当のことを言っただけだけど」
なにそれ、と笑う私。藍くんは相変わらずツンとした表情をしている。
私が卒業しちゃうと、こんなふうにくだらない会話も無くなっちゃうのかな。そう考えると、やっぱり卒業してしまうのは寂しい。
「ねえ、なまえ……センパイ」
「んー?」
「なまえセンパイは、早乙女高校に行くんだっけ?」
そだよー、と答えると、ふうんと返事をする藍くん。なんだよう、そっちが聞いたくせに。なんでそんなにそっけない返事なのかなあ。
「じゃ、あと一年待ってよね」
「は?」
「ボクの偏差値なら早乙女高校くらい楽勝だし。あと一年もすれば、また一緒に学校に通えるよ」
ぽかん、と藍くんを見つめる。この子は本気で言ってるのかな。確かに藍くんはとても頭がいい。平均より少し上である早乙女高校なんて楽勝だろう。
「……だから、一年待てば、寂しくないから。それくらい待っててよね」
ふわりと笑った藍くん。何故だか視界が歪んで、頬に雫が伝う。でも、不思議と私の口角は上がっていた。
「藍くんが来るまで、ずーっと待ってるから! 来なきゃ許さないんだからねっ」
私は今日一番の笑顔で、そう言った。
一年待てば、また春が
(あ……! そうだ、私が留年すれば、藍くんと同級生になれるじゃん!)
(バカじゃないの? そんなことしたら別れるから)
(え゙っ)
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今日卒業しました〜。