「ふっ、はっ、」

嗚咽を混ぜながら、私はひたすらに走った。何も考えず、ただひたすらに。焼却炉のある校舎裏に出たあたりで、スピードを緩めて足を止めた。
息が切れてしまい、身体が酸素を欲している。ゆっくりと瞳を閉じると、先ほどの出来事を思い出してしまった。

「あー…わりーッスけど、俺、そーゆーの受け取らないようにしてるんスよ」

黄色の彼が、そう私に向けて告げた。分かってた。モデルだから、何でもかんでも受け取ったら大変だということを。でも、やっぱり、正面から断られるのは、辛くて。目頭が微かに熱くなるのを堪えて、私は彼に謝り、その場を去った。今私の手にあるのは、彼の手に渡るはずだったカップケーキ。もう、こんなもの、捨ててしまおう。彼への気持ちと一緒に。
目の前にある焼却炉の扉を開くとむわりと熱気が出てくる。私は喉を鳴らし、カップケーキを捨てようとした。でも、手が何故か動かなかった。

「ねー、それ、捨てちゃうの?」

「え……」

後ろを振り向くと、まいう棒を握ったクラスメートの紫原くんが、私の腕を掴んでいた。相変わらずの長身に慣れず、少し身じろいでしまう。
彼の言う『それ』というのは、このカップケーキのことだろう。私は一応頷くと、紫原くんは「ふーん」とまいう棒を齧る。

「じゃ、ちょーだい」

「えっ」

「だって、捨てちゃうんでしょ? そんなん、もったいねーじゃん」

だから、ちょーだいよ。
そういう紫原くんだけど、私はまだ何故か彼にあげることをためらってしまった。本当は彼にあげるはずだったもの。それを他の人にあげるなんて、なんだか嫌だった。断ろう、と思い、顔を上げた。でも気付いたら私の手の中からカップケーキがなくなっていて。

「あっ」

綺麗にラッピングされていたカップケーキを雑に破いて、紫原くんはそれを握っていた。いつの間に、と思った瞬間、カップケーキを口に含んだ。

「なんだ、不味いのかと思ったら、そーゆーのじゃないんだ。ちょーうめー」

「っ!」

紫原くんは手についたカップケーキのかすをとるように親指をなめて、ごちそーさん、と私の頭の上に、掌をぽん、と置いた。そのまま紫原くんは去って言ったけど、私の心臓は高鳴っていた。
なんで、私、彼のことが、好きだったんじゃないの。
そう思っても、何故か心臓はやはりどっくんどっくん脈打っていた。




(だけど、新しいプロローグは、)
(既に始まっていた)



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こんな感じの連載書きたい。
最初は黄瀬←夢主←紫原だけど、
後々黄瀬→夢主→←紫原になったら美味しい。私が。
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