「やっぱ、む、り」
「だめだよ、あだなちゃん。言われた仕事、ちゃんと、やる」
「うう……」
私は現在進行形でるーちゃんの背中にひっついています。それはもうガッチリと。理由はただ一つ、誰にもこの姿を見られたくないからだ。
先ほどの女性スタッフ曰く、私の雰囲気が、今回のモデルのイメージにぴったりだったらしく、急きょこれなくなったモデルさんの代役をやることになった。
モデルをすることは、お給料も貰えるらしいので、別に気にしてはいない。たとえそれがウェディング雑誌に使うものでも、だ。
「ほら、あだなちゃん……みんな、待ってる」
「で、でも………」
だがしかし、私にはとある欠点があったことをすっかり忘れていた。その欠点とは、極度の人見知りである。内弁慶ともいう。
私は家族以外の人とコミュニケーションをとるのが苦手なのだ。
ちぃちゃんのときは、前々からるーちゃんに「いい子だよ」と言われていたので、なんとなく大丈夫だったが、今この場には全く知らない人がほとんどである。
「あ、琉生にーみっけ。ね、相手の女まだなの? 僕待ちくたびれたんだけど」
ふと、そんな声が前方から聞こえた。るーちゃんに話しかけてるみたい。だけど、どこかで聞いたことがあるような……?
「風斗くん……」
「え、ふー、ちゃん?」
「アレ、なまえ姉さん。琉生にーの手伝い?」
顔だけこそっと出すとあまり家では見ない、弟の顔が見えた。やっぱり、ふーちゃん、だったんだ。ふーちゃんは何故かタキシードを着てた。ていうことは、もしかして。
「で、琉生にー。相手の女は? 確か琉生にーが女の方もセットするんだよね?」
「うん…。あだなちゃん、だよ」
「は?」
「本当の相手の人、来れなくなった。だから、代わりに、あだなちゃんが、風斗くんのお相手さん」
るーちゃんがそういうと、ふーちゃんはぽかんとした。直後、にまりと笑う。ふーちゃん、その笑い、怖いよ。口には、出さないけど。
「へえ。なまえ姉さんなんだ。よろしくね? それじゃー、それが衣装?」
見定めするようにジロジロと私を見つめてくるふーちゃん。そ、そんな、見られると、なんというか。
「今日のなまえ姉さん、一段と綺麗。ずーっと見てたいな」
「ふ、ふーちゃ、恥ずかしいから、見ないで…!」
さっ、とまたるーちゃんの背に隠れる。するとるーちゃんが「風斗くん。あだなちゃんいじめちゃ、だめ」とたしなめてくれた。るーちゃんありがとう…!
「朝倉くん、朝日奈さん、そろそろ撮影入りまーす」
「はーい。ほら、行こう? 僕のお嫁さん♪」
「う、うん」
手を差し伸べるふーちゃんの手を取って、私たちは撮影にむかった。『お嫁さん』と言われ、どきんとしたのは、秘密。
(朝日奈さん、表情かたいよー)
(姉さん、リラックスリラックス)
(うぅ…む、むりぃ……)