私には大好きな人がいる。その人と私は相思相愛で、いわゆる両思いのカップルというやつである。
でも、そんな幸せな状況でも、私には悩みがあったりするのです。

「ね、なまえー! そのクレープ、一口チョーダイ?」

「仕方ないですね……はい、どうぞ」

「ありがと〜」

光さんは私の手にあるクレープを自分の口元へ寄せるとぱくりと口に含む。ん〜、と幸せそうな顔をしながら顔を綻ばせる光さんは、女の子そのもの。周りからも、「あれって、百合ップル?」「ヤベ……生百合なんて初めて見た」なんて声が聞こえる。光さんが女装しているとはいえ、そのような事を耳にするたびに私は、ため息をつきたくなる。
そう、私の悩みとはこれ。光さんがデート中にまで女装してくることである。
もともとお仕事の為に女装している光さん。取材などで忙しい光さんに自由な時間なんてあるはずもない。そんな中、ちゃんと時間を作って私とデートしてくれるのはすごく嬉しい。でも、忙しいから取材後にデートするパターンがほとんどで、めんどくさいからそのまま女装で私とデートしているのだ。

「アラ? なまえ、浮かない顔をしてるわよ? どうかしたの?」

「……んーん、何でもない」

心配そうな顔で私の顔を覗き込んでくる光さん。大丈夫、私は光さんに会えるだけで嬉しいんだから。光さんに迷惑かけちゃ、いけない。
なんて思っていたら、突然腕を引っ張られた。犯人はもちろん、光さん。

「え、光、さん?」

「いいから、こっち」

光さんは私の腕を引っ張っていくと、近くの路地裏に飛び込んだ。

「ね、なんでさっき、あんな顔をしていたの?」

「なんでって、」

「もしかしなくても、ワタシの所為でしょ?」

違う、と否定したが、嘘つきと睨まれる。あ、この表情、男性のときの、光さんだ。もしかして、デート中なのにあんな顔してたから、怒っちゃったのかな。

「ねえ、なまえはさ……女のワタシじゃなくて、男の俺とデートしたいんでしょ?」

「え、」 

「図星、か」

さっきまでの高い裏声ではなく、低いテノールで囁かれたため、ぞくりとしてしまう。にやにやとこちらを見る光さんに、私はどうすればいいのかがわからなくなった。

「ねえ、男の俺とデートしたいなら、そう言いなよ?」

「でも、光さん忙しそうだったし……」

「アラ、可愛いカノジョのお願いなら喜んできいちゃうけど?」

「でも、」

「でもじゃないでしょ?」

ほら、可愛くおねだりしてみなよ?
にやりと笑う光さんは、どう考えても策士なんだと思う。でも光さんの言うことはあながち間違ったことではないから。

「……じょ、女装、していない、光さんと、デート……したい、です」

「ん、よくできました♪」

これはご褒美、と光さんは私の唇にかぶりついた。
あぁ、いつになったら私は光さんに弄ばれずに済むのだろうか。でも、光さんになら、翻弄されるのも悪くないと思ってしまう自分もいた。

全ては貴方だったから

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