「なまえちゃんっ、なまえちゃん!」

仕事の打ち合わせを終え、スタジオの廊下を歩いている時、騒がしく私の名前を呼ぶ声がした。声の主は、わかりきっている。

「……うるさいですよ、嶺二さん。静かにしてください」

「え、あ、ごめん。……って、そんなことより、これみてちょっ」

ずい、差し出されたのは嶺二さんの携帯。
というか、私の注意をそんなこと扱いするなんて。相手が嶺二さんといえど、いらっときました。
まあ、今はそれを置いておき、嶺二さんの携帯の画面を見る。そこに表示されていたのは、今週のオリコンチャート。でかでかと一位を飾っているのは――……

「え、」

ジャケット写真は、大人っぽく撮られた嶺二さん。曲名は、最近、私と嶺二さんが作った曲の名前。

「ぼくとなまえちゃんの曲が一位だよっ! やったねー!」

大の大人がわーきゃーと子供みたいに騒ぐ。でも、それは私も、内心同じような状況で。
嶺二さんの知名度があったからかもしれない。嶺二さんの歌声が評価されたのかもしれない。
それでも、その認められた中に、私も含まれていたのだ。私の曲も一緒に、認められたのだ。
どうしようもなく、その事実がひたすらに嬉しくて。柄にもなくにやけそうになってしまう。

「よーっし、今晩はお赤飯だぁ!」

「嶺二さんは馬鹿なんですか、そんなわけないでしょう」

「ひどっ!?」

嶺二さんの提案を即刻拒否し、私はスマートフォンを片手に嶺二さんを見上げた。

「お赤飯ではありませんが、今晩、食べに行きませんか? オリコンチャート一位を祝って」

私がそう言うと、ぱあっと表情を明るくする嶺二さん。わかりやすすぎませんかね、この人は。と心の中で小さく溜息をつきながらも、今日のディナーを心待ちにした。


はぴねす

(よーし、今日は嶺二おにーさんが奢っちゃうぞ!)
(何言ってるんですか、嶺二さん。当たり前でしょう? 新人の作曲家にお金払わせる気ですか)
(えっ、もしかして鼻っから奢らせるつもりで誘ったの!?)


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