present | ナノ


先程まで頭上で聞こえていた菓子の袋の音が急に止む。不思議に思って顔をあげて振り向くと、僕を抱えたまま瞼は閉じられている。卒業してから月1度、お互いが交互に会いにいく事を約束し、今月は敦がこちらへ来る日。長時間の移動で疲れたんだろう、眠くなるのも無理はない。しかし、この巨体を動かすのも無理があるのでとりあえず自分が退き、敦の手から菓子の袋を外して読んでいた本と共に机の上へ置く。

「敦、敦?」
「ん、なーにー」

一応声をかけてみれば、瞼は閉じたままで返ってくる眠そうな声。敦、ともう1度声をかければ今度は寝息が聞こえてくる。ベッドにかかっているタオルケットをかけてやれば、そのまま巻き込んでまたぴたりと動きを止めた。完全に眠った事を確認し、本を手に取って再び敦に寄りかかって座る。頭上からは規則正しい寝息。

「敦、」

好きだ、と小さく呟いた。敦が起きていたら絶対に口にしない言葉でも、聞いていないと分かれば簡単に口にできてしまう。普段から口にできれば安心できるのだろうが、敦が一方的に言う言葉だけで僕は満足してしまう。一言呟いただけで微かに震えている手を落ち着かせようと本を開こうとして、止める。規則正しい寝息は僕まで眠くさせる。体を敦に預け寝息を聞いていると、瞼が重くなってくる。半分だけ意識を手放した状態で置いた本は床へと落ちた。

「あれ、赤ちん寝るのー?」
「ああ」
「じゃあ一緒に寝よっか」
「ああ」

瞼を閉じながら敦の言葉に返事をすると、かけられたタオルケットと繋がれた左手。拒否する気も気力もなく、そのまま力を抜けばあっという間に眠りに落ちる。好き、と最後に聞こえた言葉は頭上から。

返事は目が覚めた時にでも




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