present | ナノ


*それぞれ別もの


「黒子っち」「はい、なんでしょう?」本から目を離さずに横からの呼びかけに反応すれば、照れを交えた笑い声を小さくあげながら言葉の先を濁す黄瀬君。実際に見なくても、今どんな顔をしているのか容易に想像できてしまう。「黒子っち、好き」「そうですか」「本当なんスよ」「知ってます」言いながら本を閉じて黄瀬君を見上げると、嬉しそうに細められた目。「好き」目を合わせながら再び告げられた言葉に、小さく息吸った。


バッシュとボールの音を頼りに、一向に帰ろうとしない青峰君を探しに体育館に向かう。扉を開ければ、案の定1人でバスケをする褐色。「そろそろ帰りますよ」「あ?テツか」気だるそうに返事をしながらボールを片づけ、放り投げてあった鞄を肩にかけた青峰君がこちらへ向かってくるのを確認してから体育館に背を向けると、頭に軽い衝撃。「なにしてるんですか」「丁度届く位置にあっから」「喧嘩売ってるんですか」目線は合わせない会話。そのまま髪を混ぜられるいつもの感触に、酷く安心する。


一定の距離を保ったまま向き合う。言葉は交わさないまま、ただ緑間君が僕を見下ろし、僕が緑間君を見上げているだけ「あの、緑間くん」「なんだ」「そろそろ僕行きたいんですが」目線はそのままで言えば、途端に目を泳がせる。本当に分かりやすい。緑間くんはしばらくもごもごと口を小さく動かした後、僕の目の前に何かを差し出す。近すぎてすぐには分からなかったけれど、それがジュースの缶だと分かった。「、これは」「お前のラッキーアイテムなのだよ」「そう、ですか」用事はそれだけだったようで、背を向けて立ち去って行った緑間くんをしばらく眺めた。僕の記憶が確かならラッキーアイテムは別の物だった気がするんですが。受け取った小さめの缶に小さく感謝を呟く。


座り込んで水分を飲み込むと、背中に衝撃。本人は軽いつもりでしょうが、僕にとってはかなり強いもので、前のめりになる。「黒ちん細ーい」「紫原君、重いです」「そんなに体重かけてないしー」伸ばされる語尾に耳を傾けながら大人しくしていれば、いつの間にか紫原君の足の間に座らされる状態になっている。「黒ちんお菓子ない?」「残念ながら持っていませんね」「そっかあ、どうしよ」うんうんと頭上で悩まれてはこちらも困ってしまう。何かないかとポケットを漁ってみたものの、何も収穫はない。「もう少しで終わりますし、帰りにコンビニに寄りましょうか」「わあい、俺あと少し頑張る」紫原君の楽しそうな声に、僕自身も少し部活後が楽しみになったのは、彼にはまだ言わないでおこう。


「黒子、少しいいかい?」「ああ、はい。なんでしょう」壁に寄りかかって座っている赤司君に近付いてみると、その隣を指さされる。座れ、という意味だと解釈して座ってみれば、ついていた左手を払われてバランスをくずす。視界が真っ青な空に変わり、赤司君に倒れ込んだのだとやっと理解する。「すみません。退きたいのですが」「せっかく倒れたんだ、もう少しこのままでいいだろう」額を押さえつけられた上にわけの分からない事を言われる。混乱しつつも足を動かして足掻いてみる、が一向に起き上がる事はできない。「そんなに俺の膝枕は気に入らないか」「そうではないです」続けようにも言葉が出てこない。視界にはただ真っ青な空と不思議そうな顔の赤司君がぼんやりと映っているだけ。




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