present | ナノ


「ただいま」
「ただいま、じゃないでしょ。遅い」

練習の後俺の部屋で待ってろ、なんて命令したくせに。てっきり私の誕生日でも祝ってくれるのかと1人で楽しみにしていた私が馬鹿みたい。ふてくされたフリをして視線を床へ落としていると、当の本人はふらふらと引き出しの方へ向かって、そしてまたふらふらと戻ってくる。とりあえず額に汗が滲んでいる明王をお風呂へと誘導すると、ダルそうにしながらも私の後を着いてくる姿は少し可愛いと思った、言わないけど。





しばらくシャワーの音を聞きながら椅子に腰掛けて手遊びをしていると、小さな足音とあくびが背後から聞こえてくる。振り向いてみると、水で濡れた髪から落ちた水滴が床に落ちて、小さく水たまりができている。

「なまえ、タオル」
「ちょっと、もー...さっき持っていったんじゃなかったっけ?」

なんでさっき引き出しの所行ったの、と付け足しながら椅子から立ち上がる。この部屋にも何度か遊びに来ているし、カップのある場所もタオルのある場所も分かる。慌ただしい足音を立てながら引き出しの方へ向かって1番上の引き出しを開けると、見慣れない小さな箱。気にしなければいいのに、タオルとその箱を手にしてまだ突っ立っている明王の元へと戻る。

「明王、タオル」
「ん、さんきゅー」
「あ、とさ...これ、なに」

タオルと一緒に差し出した小さな箱を見ても明王は顔色一つ変えず、当たり前のような顔をしてタオルを自身にかぶせながら私の方を指差した。後ろを振り返ってみても何があるというわけでもなく、首をかしげてみると私の額にいい音を立てて指が命中した。痛い、呟きながら額をさすると、明王は吹き出して肩を揺らして笑っている。

「な、なんで笑ってるの!」
「アホ面」
「う、るさい。それより、その箱なんなの」
「誕生日だろ?違ったっけ」

差し出されたさっきの箱は、よく見ると私の好きな色のリボンでラッピングされている。覚えてたの、嘘、なんで。半端に開いた口を閉じないまま箱から明王の顔へと視線を移すと、白い肌は耳まで赤く染まっている。つられて赤くなったままありがとう、と呟いてみると、いつも通りの返事が返ってきて少し安心する。

不器用なのも生まれつき



2012.06.05 りくちゃんお誕生日

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