short | ナノ


桜が舞う校庭にはたくさんの卒業生と在校生が集まっていて、勿論俺も三国先輩達との最後の言葉を交わしていた。でもその中に俺がずっと追いかけてきた背中はいなくて、来るはずないと分かっているのについ周りを見渡して探してしまう。

「月山国光行ってくればー?」

浜野の言葉にも乗り気にはなれずに、鞄を肩にかけながら、帰ろうと門の方に足を進めると、見なれた紫色の髪が視界に写る。

幻覚だと思ったが、どうやら浜野達にも見えていたらしく行ってこい、という声と共に背中を押されて俺の視界には見なれた顔と見なれない制服が写される。

「よぉ」
「なんであんたがここに...」

ひらひらと右手を振る南沢さんに素直に口が動かずについ、いつものように言いたい事じゃない事を口走るけどそんな事にはもう慣れたのか、南沢さんは平然とした顔で話を続ける。

「生意気な後輩にお礼言われに来た」
「言われに来るもんじゃないっすよ、お礼は」
「待っててもお前来ないだろ」

くしゃくしゃと頭を撫でてくる大きい手にももう撫でられる事はない、そう思うと自然と目から涙が零れて、自分では制御できなくなっていた。何泣いてんだよ、と頭上から聞こえる困った声にも反応できずに
ただ必死に涙を拭おうと袖や手のひらで顔を押さえつける。

「みなみ、さ...っ、さん」
「ん、なに」
「卒業おめでと...ござ、ました」

せっかく言おうとしていた事も途切れ途切れでかっこ悪い。それでも南沢さんは笑って、いつも通りの笑顔でなんだか安心した。

「ありがとな」
「は...、い」

もう一度頭を優しく撫でられて、ゆっくりと離れていく手が寂しく感じたけど、その手をここに留める事もできずに、今度は背中を向けてひらひらと右手を振る姿に俺も小さく手を振った。

君の背中を追いかける




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