short | ナノ


*倉間が先天性にょた



鞄に教科書をしまいながら、昨日貰ったばかりの紫色のピンで前髪を止め直す。まぁ、ただの飾りだから隠している目を見せるわけでもないけど。ついでにスカートも少し短くしてハイソックスとのバランスを保つ。ポケットから出したリップを唇に塗って鏡で最終確認をする。

じゃらり、とたくさんのストラップがぶつかりあう音を出す鞄を肩にかけ、3年生の教室のある階へと階段を登っていく。

廊下で待っているとたくさんの3年生に見られるけど、そんなのは毎回の事でもう慣れてしまった。教室から出てきた人の足下を目で追っていると、ある1人の足が近付いてきて、あたしの目の前で立ち止まる。

「倉間」
「あ、」

声をかけられて顔をあげると南沢さんがいて、思わず言葉ではない音が出る。付き合いはじめてから部活がない日は毎日繰り返していても好きな相手に呼ばれる名前はどこか違う感じがして、慣れない。

「...ピン」
「え?」
「いや、ピンつけてんだな」

1階まで降りる階段で前髪に指をさされて思わず聞き返すと視界に紫色の髪が写って、不思議な色だけど綺麗な目を細めて笑う南沢さんにしばらく見とれていると挟むだけだったピンを外され、細い指で前髪を上げられて視界が広がる。

「え、ちょ、なに...!」
「両目でてる方がいいんじゃねぇの」

その為にあげたんだし、という言葉が発されるのと同時に前髪を上げたままピンをとめられ、あたしは言葉が出ない口をただ開閉させる事しかできない。

とりあえずいつもと同じ視界の広さに戻したくてピンへ左手を伸ばすとその左手を南沢さんの右手に握られ、結局ピンを外す事ができない。

「あの、ピン外したい...んですけど」
「だめ、明日からその髪型な」
「なんで」
「なんでも」
「でもこれじゃ視界広がって無理なんですけど...っ」

ドアから吹き込む風に目を瞑る。いつの間にか校舎を出て、外に来ていた。視界が広がった事と手を繋がれている事が重なって顔が火照る。それを南沢さんに気付かれないように右手で隠すと頭上からあー、と声が聞こえてくる。

「な、んですか」
「前言撤回。俺の前以外ではその髪型なしな」
「言われてもしないですから!」

前言撤回されたのは嬉しいけど、その言葉は言ってしまえば南沢さんの前ではこの髪型をしなければならない、という事。ムキになって口では否定をしたけれど特別な感じがして嬉しかったりしたのは絶対に言ってあげない。

あなたの好きな子になりたい



sex change!さまに提出
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!

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