short | ナノ


練習を終えて、息を整えながらタオルを受け取ると、違う人のものだと思われるタオルを持ちながら山菜が誰かを探すようにきょろきょろと周りを見回している。

「山菜?」
「あ、霧野君...倉間君知らない?」

ゆっくりと口から放たれた言葉を聞いてそういえば、と俺も周りを見渡すが、逆に目立つあの小さな背も水色の髪も見当たらない。

「じゃあ俺渡しとくよ」
「ありがとう」

山菜からタオルを受け取りサッカー棟を歩き回ってみると、外にある水道から水が流れる音が聞こえてくる。

「お、いた」
「あ?...あ、霧野か」

普段は左目を隠している前髪を上でまとめて水で濡れた顔のままこちらを一瞬睨んだが、俺だと認識したのか、またいつもの表情に戻る。

「練習終わってすぐここにいたのか?」
「あぁ、せめてタオルは持ってくればよかったか」
「そうだな、山菜が心配してた」

笑いかけながらタオルを顔の上にかけてやると倉間は小さく礼を言いながら顔を濡らす水を拭き取る。倉間にタオルをかけるだけでやり場の無くなった手を空中でしばらく動かしたり揺らしたりしていて今さら下げるわけにもいかず、その手をそのまま下ろしてぐしゃぐしゃと水色のくせのある髪をかき混ぜる。

「何してんだよ霧野」
「いや、なんとなく」
「あ、そ...」

強気な言葉の後に絞り出したような曖昧な言葉が返ってきて、倉間の頭に手を置いたまま顔を覗き込むとタオルで隠されきれていない褐色肌が少し赤く染まっている。

「倉間、倉間」
「うるさいこっち見んなあっち行け」

倉間が振り回した腕を避けながら更にくしゃくしゃと髪をかき回すと、顔の下半分だけをタオルで隠した倉間がこちらを睨んでくる。

そんな真っ赤な顔で睨まれてもな、という言葉は心の中にしまっておいてとりあえずもう1度くしゃり、と髪をかき混ぜて水道の側にあったベンチに腰掛ける。

彼を染めたのは見覚えのある



2012.03.11 蘭倉の日

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