short | ナノ


*恋人未満


好きになった人ってきらきらして見えるんだって。そんな話を聞いたのは確かお昼休み頃だった気がする。

「あ、れ」

開け放たれている体育館のドアから外を眺めても探している人物は一向に現れない。体育館にも、いない。ボールを持ちながら立ち尽くしていると、背後からどうした、と声が聞こえる。振り返って目の前に広がるのは赤。赤司君はもう一度僕に同じ質問をした。

「どうした」
「えっと今日、黄瀬君は」
「ああ。黄瀬なら仕事だとかで」

休みだよ。と赤司君が言い終わる頃に声が小さくなっていったのは、僕がふらふらと遠のいて行ったからだろう。普段はあんなに五月蝿いのに、いないとこうも寂しくなってしまう。とにかく、今の状態では練習に集中もできそうにない。最近少し寒く感じるようになってきた水に手をつけ、顔にかける。そういえば黄瀬君もこの間こんな事を言っていたような。タオルで顔を拭いながら頭に浮かんだ黄色は、どうやらもう振払う事はできないらしい。そしてつい先程思い出した話にもあったように、頭の中でも輝いて見えるような気がする。気がする、だけ。

「恋でも、してるんでしょうかね」
「え、黒子っち、?」

背後から聞こえたのは先程から探していた、黄瀬君の声。慌てて振り向くと、大きく目を開いてぱちぱちと何回も瞬きをしている。まさか独り言を聞かれていたなんて、それも直接本人に関するような。幸い、名前は挙げていないので自分の事だなんて気付いていないでしょうけど。当の本人はこい?と首をかしげている。

「いえ、なんでもないです」
「え、ちょ、気になるんスけど、えー」

体育館に向かって歩き出すと、声も背後からついてくる。よく本に恋とは楽しいものだと出てくるのが、やっと自分で理解できたい気がする。背後から未だ聞こえる声を遮るように黄瀬君、と呼ぶと、途端に嬉しそうな返事。意識してしまえば全てが輝いてみえるなんて、僕も簡単な人間ですね。早く戻りましょうか、赤司君に怒られてしまいますし、なんて人のせいにして少し早足で体育館に戻る。終始背後から聞こえるのは、独特な形になった僕の名前。

心はきらきら君の色




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