short | ナノ


*恋人未満



部活が終わって、まだ明るいからと人混みの多い方へ足を向ける。甘い匂いがしてその方向を向いてみると、車の隣に立てかけてあるピンク色に染まっている旗にクレープと書いてある。丁度人も並んでいないし、鞄から財布を取り出しながら車の中にいるお姉さんに注文をする。じゃあそれで、と言おうと口を開くと、右から長い腕が伸びてくる。咄嗟に振り向くと、見なれた制服が視界いっぱいに写る。でも特徴的な語尾と聞き慣れた声で誰だかは分かった。

「きーちゃん」
「あ、すいませんっス」
「ううん、別にいいけど...」

話しながら車の中のお姉さんから2つのクレープを受け取ったきーちゃんが1つ差し出してくるのを受け取る。1番上に飛び出ている生クリームに埋まった苺を口に入れながらきーちゃんを見上げると、同じようにクレープを頬張っている。揺れている金髪がオレンジ色に染まっていて、思わず見とれてしまう。

「どうしたんスか?」
「なんでもないよ」
「ならいいんスけど...あ、桃っちのちょっと貰っていいスか?」
「うん、いいよ。私もきーちゃんの食べたい」

持っていたクレープを差し出して、差し出されたクレープを受け取る。カスタードクリームにバナナ、チョコレートソースがかかったそれを頬張ると、さっきとは違う甘みが口に広がる。こっちも美味しいっスね、と返されたクレープを受け取りながら持っていたクレープを返そうときーちゃんを見上げると、口の端に生クリーム。

「きーちゃん、生クリーム付いてるよ」
「え、嘘!どこっスか」
「ほら屈んで、取ってあげる」

近くなった距離にドキドキしながら、見つからなかったティッシュの代わりに人さし指で生クリームを取る。はい取れたよ、と声をかけながら鞄を漁ってティッシュを探していると、人さし指にざらりとした感触。なにか分からずに目線をあげると、きーちゃんの口に、私の指。

「...きーちゃん、」
「え?あ、わ、すいませんっス!」

無意識だったのか、きーちゃんは慌てて離れてさっきよりも距離を作った。私も赤くなっているであろう顔を隠すように俯きながらその隣を歩く。残ったクレープを1口頬張ると、きーちゃんが少し近付いた気がした。

人さし指ぱくり




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