short | ナノ


俺の貴重な休日に一緒に出かけたい、なんて言う可愛い恋人の願いを叶えてやらない程、俺も器が小さくないわけで、駅前を2人で食べたり喋ったりふざけたりしながら中学生らしく遊んでやった。一通り行きたい場所をまわり終わって小さい公園で休んでいると、ゲーセン行きましょーか、なんて急に倉間が顔を輝かせながら言い出したので、いつもなら断っているところだが、この可愛い顔に免じて付き合ってやることにした。

「あれ、こっちじゃなかったですか」
「馬鹿、そっちは違う」

ただ、店をまわっている時にも思ったが急に違う道に入ったり、曲がったり、方向音痴ってやつらしい。自分から言い出したくせに反対方向へ曲がろうとする倉間の手に自分の手を重ねて握って、そのまま引っ張ってやる。え?なに、え、と明らかに動揺している倉間をそのまま引きずってキラキラと無駄に強い光を発する店内に押し込んだ。

「あの、手、南沢さん!」
「はぐれたら困るだろ。俺、人混みの中でお前見つけられる自信ないし」
「えー、はぐれないですって」
「方向音痴が何言ってんだ」
「別に方向音痴じゃないです!」

俺の言ったことに一々反応する倉間を連れたままUFOキャッチャーの方へと連れていくと、倉間は急に静かになって中に入っているぬいぐるみの山を見つめ始めた。なにが欲しい、と尋ねると嬉しそうに俺の顔を見上げてから1つを指さした。そこには目つきの悪い水色の猫のぬいぐるみがあって、一旦手を離して200円を投入すると、ボタンとアームが光って目が痛い。

「南沢さん、これ得意なんですか」
「んー、やったことない」
「え?!じゃあなんでやったんですか」

倉間がこっちを見ながら投げかけてくる質問にはあえて答えず、2と書いてあるボタンを押すと猫の足にアームが引っかかり、見事に落ちた。しかも2個。驚いた表情をしながら俺とぬいぐるみ2個を見比べる倉間に思わず吹き出すと、なんで笑ってるんですか!なんて怒られた。

「まぁ、取ってやったんだから感謝しろよー」
「してますけど!アンタが笑うから!」
「笑ってないし。勘違いだろ方向音痴」
「だから、方向音痴じゃないですから!!」

可愛い君が言うから

帰り道で紫色と水色の猫をしばらく見つめていた倉間が、俺の目の前に水色の方のぬいぐるみを差し出してきて、素直にそれを受け取ってみると、小さな声でお礼、と聞こえる。お礼って言ったって、取ったの俺だし。そう言おうとして止めたのは、紫色の方を両手でしっかり抱きかかえながら赤い顔をする倉間がいたから。そのままふらふらと右へ曲がろうとした倉間の手を先程と同じように握ると、今度は静かに握り返してきた。

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