short | ナノ


今日は翔ちゃんと僕の誕生日で、翔ちゃんが家を出てからもこの日だけは一緒に祝ってきた。家の近くにあるケーキ屋さんで苺のたくさん乗ったショートケーキを1ホール買った。2人共、甘いものは好きな方だから半分ずつは食べられるはず。箱が傾かないように慎重に抱えて、蒸し暑い道路の上を歩幅を広げて進んだ


外側も内側も真っ白に塗られたエレベーターで、翔ちゃんの部屋がある階まで上がっていく。同じように真っ白に塗られた壁とドアの間に取り付けられている黒いインターホンのボタンを軽く押すと、すぐにドアの向こうから翔ちゃんの声がして、慌ただしい足音も聞こえてくる。

「おう、薫来たか」
「久しぶり、翔ちゃん」

明るく出迎えてくれた翔ちゃんに手招きされて部屋に入ると、長い廊下の先に見える広い部屋に少し寂しさを感じた。靴を脱ぎ揃えて、ついでに翔ちゃんが脱いだ靴も揃えて先に進んでいた翔ちゃんの後ろを追いかける。

「そこ座っとけよー」
「はいはい」

崩れないように手に持っていたケーキの箱を横に置いてテーブルの傍に腰掛けると、食器の擦れる音がして僕の持っていたケーキに気付いたのかと思ってテーブルの上へケーキの箱を移動させる。少ししてキッチンから翔ちゃんが大きめの箱とカップを2つ、フォークを2本持って出てきて、そのまま動かなくなってしまった。どうしたんだろう、翔ちゃん。目線をテーブルに移して自分の持ってきた箱と翔ちゃんの持っている箱が同じ物だと分かって、僕も少しの間だけ体が固まった。

「うわー、ちょっと考えて買ってくれば良かった」
「僕も。1人1ホールになっちゃうね」
「まぁ、いっか」

カップをテーブルに置きながら笑う翔ちゃんにつられてつい頬が緩む。翔ちゃんに渡されたフォークを
右手に持ちながら箱を開けると、前に座った翔ちゃんと目が合う。まさか、まさか。僕の前にあるのはショートケーキで、翔ちゃんの前にあるのもショートケーキ。フォークを持って固まっている翔ちゃんの姿に思わず吹き出すと、どうやら僕も同じような姿をしていたようで翔ちゃんも一緒に吹き出した。

「誕生日おめでとう、薫」
「翔ちゃんも。お誕生日おめでとう」

お互いに言ってからケーキをフォークで一口サイズに切って、口に運ぶ。甘ったるい生クリームは飽きそうだな、とは思ったけれど、決して嫌な甘みでもなかった。

特別な日に捧げる



2012.06.09 来栖兄弟誕生日

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