*軽い死ネタにつき注意 「倉間、ほんとにいいのか」 「大丈夫ですよ、俺は」 「嘘付け、震えてるくせに」 「南沢さんだって」 波が足下に何回が行き来するのを確認して2人、手を繋いで遠くに見える海の端を目指して足を進めていく。不思議と冷たい、痛い、怖い、などといった感情はなくて、きっとこれは夢なんだと自分の中で勝手に納得する。そうでもしないと逃げ出してしまいそうで。 「海の中でも一緒にいような」 「はい、そうっすね」 「また生まれ変わって出会えばいいんだ」 「今度は男と女としてですね」 「俺は男のままがいいかな」 「俺も男のままがいいです」 「あのな、またやり直さなきゃいけないだろ」 「確かに」 あはは、と眉を下げて笑う倉間の顎にはもう海水がついていて、気付けば俺も首元まで海水に浸かっていた。男と男で恋愛できない事なんて知ってた、だけど愛し合ってしまったんだからもう生まれ変わるしかないだろ。ほら、2人一緒に沈めばきっとまた会える。 「...倉間、ごめんな」 「なにが、同意の上なんだから謝る事なんてないですよね...う、」 言い終わると同時に口が海水に浸かった倉間は眉間にしわを寄せながら必死に顔をあげている。もうすぐ限界か、なんて心の中で思うと口が上手く動かない、目から流れてきた涙は海水と共に流れていった。会話を続けられずに、たださよなら、さよなら、また会いたいな、なんて繰り返してももう倉間の声が聞こえる事もない。 「好きだよ倉間」 そういえばあまりその単語を口にする事がなかったな、でもまぁまた会えるからいいか、なんてどこか他人事のように考えていると、目の前が真っ青になり目を開けている事もできなくなって、息を吸う事も吐く事もできなくなっていた。差し込んでくるのは薄暗い光だけ、もう外は夜なのか。 またな、なんて言葉は泡になって上へと浮かんでいく。大丈夫、苦しくない、だって次に目を覚ました時には俺もお前も男と女で、幸せにずっと生きていけるはず。 ひどい夢を見た back |