すれ違い




「シズちゃん」

臨也はただ淡々と。

「好きだよ」

淡々と繰り返す。
嘘だということはわかっている。
色んな女にも同じことを言っているんだろう。

「そうか」

静雄もまた淡々と。
同じ返答を繰り返す。
嘘でもそばにいてほしかった。
そばに居てくれればいいんだ。

「泣いてるの?」

「あ?」

頬に触れる。
自分は泣いているということに気付いたのはその数秒後。
俺は泣いてるのか。
泣いていると自覚してしまうとストッパーのかかっていた涙腺が一気に緩む。

「泣かないで。…側に居るから」

「嘘だ」

嘘だ嘘だ。嘘を言うな。
他の奴にも言ってるくせに。
そう思うと、胸が締め付けられる。
涙は止まらない。

「嘘じゃないよ」

「嘘だ」

俺はどうせ遊びだろ。
その程度なくらいわかってんだよ。

「違う、信じて」

「無理だ」

「信じて、お願い」

「嘘なんだろ」

「信じて…信じてよ、お願い…」

お前が泣く必要なんかない。
泣くのは俺一人で十分だろ。
傷付くのは俺だ。お前が傷付く必要はない。
俺に好きなんて言う必要ない。
俺に信じてなんて言う必要ない。

「シズちゃん…お願い…信じて…」

とても悲しげな顔をしながら。
ぱたぱたと涙を落としながら俺の胸にすがり付くように、それでいて遠慮するようにゆっくり、そっと抱き着いてくる。
そんな顔するな。
触れたい。触れて、思いっきり抱き締めてやりたい。だが俺にそんな資格はない。
臨也だってしてほしい相手は違うだろう。

大好きなのに。好きで好きで堪らないのに。
たまに見せるその無邪気な笑顔も、怒った顔も、煩くてしょうがない口も全部全部好きなのに。
お願いだから。お願いだから俺の事で泣いたりするなよ。俺よりいいのなんてたくさん居るんだからさ。

「シズちゃん…」

呼ぶなよ。もう呼ばないでくれ。
お前には男の俺より可愛いげのある女が居るんだろう。
余計止まらなくなるだろ。

臨也。

もうこの名を呼ぶ事もないんだな。
愛しいお前の名前を呼ぶべき人は俺じゃない。
今まで、ありがとう。
短い間、嘘でも愛してくれて、嘘でも好きと言ってくれて、ありがとう。

「……臨也」

「…なに…?」

でも、最後にこれだけ言わせろ。

「愛してた。本当に。本当に愛してたよ、臨也。今まで、ありがとう」

「…ぇ…え…?…何…言ってんの…?ありがとうって何…?シズちゃん…ねぇ…!ねぇ、嘘でしょ…?…やだ…嫌だよ…!!俺も愛してる、今だって愛してるんだよ…!!」

嘘だよな。
取り乱すなよ。お前には居るだろう。
慰めてくれる奴が。
俺にはお前しかいなかったんだ。
大好きな臨也。
俺に嘘をありがとうな。






静臨でも臨静でも。
きっとこのあとなんとかして臨也は静雄の誤解を解きます
(2010.11.15)




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