泣かないで





「えっーと…あとなんだっけ……あ?臨也?」

「っシズちゃん?!」

静雄にしては珍しく考え事で臨也の気配には気付かなかった。
臨也も珍しく挑発はしなかった。
だってここは路地裏。
静雄は帰りで臨也は…泣いていたから。
それぞれ用事もなくここにいた。
会うことすら想定外で挑発なんかいきなり掛けられるものじゃない。

「なんで池袋に居るん…」

「ぇっく」

臨也はその声を抑えるために手の項を唇に押し当てる。
よく見ると目も赤く小刻みに身体を震わせていた。

「お前…泣いてんのか」

静雄の声にはもう怒りは混ざってなく穏やかだった。
臨也はそれに安心したのか我慢して目元に溜めてあった涙を溢す。

「見な…いで……っ」

唇を押さえた手を目に持ってきて覆う。
口はやっぱり声を出さないように唇を噛み締める。
そして顔を深く伏せて後ろを向く。

「…………ったく」

早足に歩み寄って後ろから抱き締める。

「………ぇ」

「目の前で泣かれたらどうしたらいいかわかんねぇだろうが。それに」

臨也は驚きで目を見張る。
静雄は熱くなった顔を隠したくて臨也の髪に顔を埋めた。
臨也の髪は甘い匂いがした。
そしてさっきより力を込めて抱き締めなおす。

「……好きなやつが泣いてたら心配になるに決まってんだろ」

強く抱き締めて臨也が振り向けないようにしてやる。
そうすると臨也は糸が切れたように泣きじゃくる。

「っぇっく、ごめん、な、さっ、ぁあうぅう…っ…ひっ…シズ、ちゃ、ぁああ…っ」

やっぱり表から抱き締めてやりたくて振り向かせ抱きなおす。
臨也にもそれは都合がよくて静雄の背中に手を回し泣き声を我慢するためかベストをぐっと握った。後で皺になるんだよなぁ…まぁ臨也のためならどうでもいい。
しっかりと抱き寄せた。

「あぁ、わかったから。」

「お、俺っ…シ、ズちゃ、んにっ…好かれ、る資、格な…っのに」

必死に絶え絶えな息で呼吸をしながらゆるゆる首を振る。
それが堪らなく愛しい。

「それを俺は好きになったんだよ。それにずっと待ったんだ。もういいだろ」

詳しくは高校の時から。
そこからずっと想い続けてきた。
想う、というよりは自分の臨也への想いに気づいたと言うべきか。
それは覚えてないがいつからか臨也が愛しくなった。

「シ、ズちゃん…っ…シズちゃ、んシズ、ちゃ…ん…っ…」

名前を呼ばれる。
忌々しかったその名前で。
今は忌々しくもなくなんでもなく、
そのまま馴染んでしまったその名前。

「あぁ」

本当は結構嬉しかったりした。

「ごめ、んなさっ…いぃ…っ」

「んで謝るんだよ。臨也はなにもしてねぇだろ」

「違っ…の…っ俺っ…俺…っ」

「なんだ?うん、ゆっくりでいいから言ってみろ、な?」

「俺っ…いっぱ、い…っ…!!やなこ、とっ、シズちゃんに…っ!!」

なんだそんなことか。
もはや臨也のやることに関してはほぼ愛らしくしか見えないため全く気にしていなかった。だからと言って態度を変えるのは如何わしいものかと思いあの態度を続けていただけで。

「気にしてねぇよ、んなもん。ただ俺が嫌々振り回す標識とか自販機が当たらないかは心配だったけどな」

優しく笑んで臨也の髪を撫でる。
臨也も少しづつ落ち着いてきているらしく呼吸が落ち着いていた。
どのくらいそうしていただろう。
その頃には臨也はもう落ち着いていた。

「……大丈夫か」

「うん。…ありがとね、シズちゃん」

きゅっと抱きつく腕に力がこもる。

「臨也が好きだから」

臨也がびくっと身体を震わせる。
耳元に口をよせる。

「返事は?」

答えない代わりにまた抱きつく力が強くなった。

「そうか」

静雄は優しく笑って下を向いたままの臨也の顔を持ち上げ自分と臨也の唇を重ねた。








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