甘く



台風が来ているとか。
言った通りの土砂降りの雨。
そんなんだから仕事も中止になった。
…まぁいい。とにかく

「寒いぃ……」

11月なったら完全に冬だろ。
寒さに耐性の無いらしい俺は冬が嫌いだ。
まだ自分の体温で温かい布団に潜り込む、
と。

バタン―――

…?誰だいきなり。チャイムもなしに。
泥棒か?寝るとこだったってのに…
仕方なく起きて玄関に顔を出す。

「……っノミ蟲…?」

雨に濡れた臨也が壁にもたれてぐったりしていた。息もだいぶ荒い。
中には入るのでいっぱいいっぱいだったみたいだ。

「ちょ、…おい!大丈夫か!…臨也?!」

触ると冷たい。冷えきっている。
とりあえずタオルで拭いてやり着替えさせる。俺のだから小柄すぎる臨也にはサイズが合わないが濡れたのを着ているよりは良いだろう。
その上から布団をかけて頭を撫でてやる。
こんなときに自分でも馬鹿だと思うが、
…ちょっと可愛かった。
今ぐらい喧嘩なんかしなくたっていいだろ。てかしてられるか。
――ちょっと前。
小さな事で喧嘩して、俺が悪いのに謝ろうともしないのを見て

「もう知らないっ!!シズちゃんの馬鹿っ!!大ッ嫌い!!」

なんて泣きながら言われたらたまらない。
それからは自然とお互い連絡も取り合おうとしなかったし、池袋で会ってもただあの喧嘩して終わり。
謝る機会もことごとく無くて、もう別れたも同然な状況だった。

今さらぐじぐじ言ってられない。
今は非常事態だし。


「臨也……寒くないか?温かいの作るから…な?」

震える身体を押さえるように手で押さえ込んでいる。声を出すのも辛いみたいで小さくこくっと頷く。
頭を二度優しく叩いて待ってろといいそこを離れる。
コーヒーは身体を冷やすから…
紅茶辺りがいいか。
紅茶を作って……砂糖どうしよう。
甘党な俺は多目に入れるが…少な目でいいか。

「ほら、持ってるだけでも温かいから。」

顔を軽くこっちに向けて手を小さく伸ばす。持たせてやって隣に座る。

「……ありがとね…シズちゃん」

そう言って苦笑し紅茶に口を付ける。
なんでこいつは雨、しかも台風の時に傘も差さずにうろついてる。
俺より情報が遅いわけないし分からなくても外を見れば分かるはずだ。

「どうして傘とか差さなかったんだよ」

言い方が強かったか?
また苦笑してマグカップを握り直す。

「…ちょっと…色々あって…」

「…何かされた…とかか?」

マグカップをテーブルに置いて顔を伏せる。あぁ…何かされたんだな。

「嫌だったら言わなくていい」

「……少しだから」

手招きされてもっと近くによると
胸に顔を押し付けて。

「…怖かった…っく…いっぱい追っ、かけてき、て…ひくっ……怖かったの……」

要は逃げて近くだったここに来たと。
そのまえに臨也のその行為にびっくりした。抱き寄せたかったが今の俺にそんな資格あるのか。
躊躇して結局

「……怖かったな。もう大丈夫だから。来たら追い返してやるよ。…安心しろ、守ってやる。」

優しく声をかけ頭を撫でる。
完全に糸が切れたみたいで、泣き声をあげながらわんわん泣き出した。
それをなだめてまだ朝早いが今日は出歩かないで泊まってけと言うと気まずそうにうんと呟いた。

「……ごめん。…迷惑、だよね…」

申し訳なさそうにみてくる。
それも今すぐに泣きそうな声をして。
目には涙を溜めて。

「………シズちゃん………ごめんなさい……っ……絶対俺っシズちゃんが嫌なこといっぱい言った……なのにシズちゃん優しくって……ごめんなさい…ごめんなさい……もう言わないから……ごめんなさい…っ…俺の事…嫌いにならないで……」

さっき泣いたときよりも悲痛な表情をして
ぎゅっと抱きついてくる。
謝らなきゃいけないのは俺なのに。

「こっちの台詞だ馬鹿野郎。………ごめんな。俺が悪いのにな。俺の方が臨也にたくさんやなこと言ってる。なのにそっちが謝るなんてよ。俺の台詞だっつんだ馬鹿。つかこんなんで嫌いになると思ったか。俺はしぶといからなぁ、そこは心配しなくていいぞ。
……今でも大好きだ。愛してる。
臨也の嫌なこともう言ったりしないからな。そばに居させろ。」

抱き締め返す。
強く、強く。
意思が伝わるように。

「………こちらこそ」

小さく呟かれたその言葉は少し嬉しそうだった。

臨也の細く華奢な身体を抱き締めたまま頭をまた優しく撫でてやると安心したらしく寝息を立て始めた。寒かったもんな。走ったみたいだし。それにあれだけ泣いたらそりゃ疲れるわな。

「……お疲れ様」

寝息を立てる臨也に言う。
まだ朝は早い。それでも寝れる臨也は昨日から寝てないのだろう。
可哀想に。
起きたらたくさん、甘えさせてやろう。
溜まった分も、これからも。






続くのかこれ



2011/01/23



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