京天 | ナノ





「俺の話聞けよ!」
「あ、ごめんなさ、許して…」
「なんで謝るんだよ?」

俺の言うことに一々謝る天馬。
いったいどうしたというのか。
天馬の顔を覗き込んでも俺の目
を見てやくれない。しだいに、
悲しいという感情が胸を過ぎる

「なあ?こっち見ろよ?」
「あっ…」
「天馬…」

名前を呼びながら天馬に迫る。
徐々に後ろに下がるあいつに、
イライラが込み上げる。なんで
俺の言うこと聞けよ?そう呟き
天馬の腕を掴んだ。さっきより
震え出す松風。

「お前…どうした?」
「どうって、剣城酷いよ」
「なにがだ?」

そう聞くと天馬は黙り込んで、
瞳から涙を流すばかりだった。
ゆっくりでいいから言ってみろ
そう言って頭を撫でるとその手
を跳ね退けられた。なんで…?
俺の目を見ながら話し始めた。



「さっきさ、さっきの試合でさ、
剣城俺に一回もパスを回して
くれなかったよね。もしかして
あれ見てたのかなって、俺さ、
ちゃんと剣城を愛してるんだよ
でも、あれはキャプテンがね…」

天馬の口からは聞きたくない
名前が出てきた。そう俺と天馬
は付き合っているのだ。なのに
天馬は、神童先輩とセックスを
していた。あーあ、忘れようと
していたのにな。独り言のよう
に呟く。

「俺最低だよね?剣城、ねえ…」
「もう、いい。お前なんか。」
「えっ?待ってよ、剣城?
こっちみてよ、嫌だ行かないで」

天馬の顔など見れるわけがない。
怒っていないと言ったら嘘になる
でも本当は許してあげたかった。
でも許してはあげられなかった。
それほどショックだったから…。
思い出すほど涙が出てくる。
あんなに神童先輩を欲しがっていた
くせに…なんで嘘つくんだよ。
明日サッカーやりたくないな。
初めてそう思ってしまった。

「おはよう!剣城!」
「…」

スタスタ天馬の前を通り過ぎる
本当は挨拶していた。心の中で
でも口からは出なかった。言葉
にはならなったのだ。悲しい顔
をする天馬なんか見てられない
シュンとして俺の後ろについて
歩いた。天馬今すぐ抱き締めたい
キスしたい。でも素直になれない
許してあげるの一言が言えない
そうこうしていると、サッカー
が始まってしまった。サッカー
はチームワークが大切だ。喧嘩
なんてしていて出来るわけが
ない。どうしたらいいのか。

「剣城っ!はいっ」

天馬からパスが回ってきた。
コロコロ前を通り過ぎた。えっ
何やってんだよ!周りから批判
の声があがる。ごめんなさい。
ぼーっとしてて、なんて言い訳
した。けれど天馬は分かっている
泣きそうな顔をしていた。

「ごめんな、天馬。」

休憩の時間はいつも一緒にいた
でも今日は居なかった。天馬を
見ようともしなかった。だって
キャプテンと仲良さそうに笑顔
で話していたから。本当は…
許して欲しいって言うのも嘘
なんだろ?そう思って天馬を
遠くから睨み付けた。駄目だ。
睨み付けるのをすぐさま止めた
俺は何をしているんだ…
ぼーっとしているうちにもう、
みんな居なくなっていた。
今日の練習はとっくに終わっていた
帰ろう、そう思った。

「剣城?」
「なんですか?キャプテン。」
「ふっ、怒っているのか?」
「当たり前ですよ」
「けど天馬に怒るのは筋違いだ
天馬に嫌われるだけだぞ?」
「っ…」

もういいんですよ。そう言って
キャプテンに背を向けた。
本当はもう許してんですよ?ただ
素直になれないだけです。
帰りざまにキャプテンに言った。
天馬は剣城がいなきゃだめなんだ
意味深な言葉を残してキャプテン
は去ってしまった。なんでだよ。
キャプテンも天馬が好きなくせに
どうして仲直りさせようとなんて
意図が解らないまま夜が過ぎた。
朝になってもモヤモヤが解消
されない。今日は挨拶ちゃんと
返さなきゃ。それだけ思って前に
進んだ。

「剣城、おはよ…」
「…」
天馬が泣きそうな顔をしていた。
俺の前から走り去ろうとした。
待て!周りがびっくりするほどの
大きな声で叫んだ。ビクッと天馬
の肩が上がった。

「剣城?」
そう言って振り返った。
「待てよ…」
「うん、」
「ごめんな。本当は俺…お前を
許してた、だけど素直に
お前を抱き締めれなかった。」
「剣城…」

天馬を抱き締めたい。あんな顔を
させてしまうなんて最低だな、
泣き出しそうな天馬を抱き締めた

「剣城、ごめんなさい。大好き」
「俺はそれだけで嬉しいよ」

とは言ってもここは学校の前。
登校前の生徒が皆振り返る、
先生までもが見ていた。

「恥ずかしいな…」
「うん、教室いこっ剣城!」
「ああ…」

こうしてめでたく仲直りが
できた。

「やっぱり天馬の隣は剣城なんだな」

そう思ってキャプテンは教室に
向かい歩き出した。


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ありがとうございます!

2012.08.02